【外交安保取材】防衛白書で北朝鮮の脅威認識を引き上げ 米朝会談後も募る危機感 中国評価は「据え置き」なぜだ? - 産経ニュース

【外交安保取材】防衛白書で北朝鮮の脅威認識を引き上げ 米朝会談後も募る危機感 中国評価は「据え置き」なぜだ?

平成30年版防衛白書は「拡張現実(AR)」技術を活用し、ページを専用アプリで読み取るとスマートフォンに動画が映し出される
8月、北京で開かれた中央軍事委員会で代表と握手する中国の習近平国家主席(右)(新華社=共同)
東シナ海公海上で中国国旗を掲げて航行する潜水艦(防衛省提供)
中国が軍事拠点化を進める南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島のミスチーフ礁の画像。米軍が2015年5月に公表した(ロイター=共同)
4月12日、中国国営新華社通信が配信した、南シナ海で空母「遼寧」を中心に航行する中国海軍の艦隊の写真(AP)
ルーマニアに設置されたイージス・アショアの施設=2016年5月(ロイター=共同)
 政府が8月28日に公表した平成30年版防衛白書は、北朝鮮の核・ミサイルについて「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」と位置付け、「新たな段階の脅威」と表現した前年から脅威認識のレベルを引き上げた。非核化などを目指すことで合意した6月12日の米朝首脳会談後も北朝鮮危機は続いているとの認識を改めて強調する内容となった。一方、軍の急速な近代化を進め、一方的な海洋進出を継続する中国への評価は「据え置き」となった。なぜなのか。
認識に変化なし
 防衛白書は、日本を取り巻く安全保障の現状と課題について周知を図り、国民の理解を得ることを目的として毎年刊行されている。政府の現状認識を知るには、またとない資料といえる。30年版は主に昨年7月から今年6月までの動きがまとめられた。
 北朝鮮は、わずか2年の間に3回の核実験を強行し、40発もの弾道ミサイル発射を繰り返している。白書は、北朝鮮の核・ミサイル技術について「すでに弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化に至っている可能性」を指摘。発射形態の多様化や、日本全域を射程に入れる数百発の中距離弾道ミサイル「ノドン」が実戦配備されている現状についても懸念を示した。
 政府が弾道ミサイル防衛(BMD)の強化を急ぐのは、この「危険な隣国」(防衛省幹部)に備えるためだ。31年度予算には地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」や、搭載する最新鋭の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の取得費などを盛り込む。
 一部野党やメディアは、米朝首脳会談が開かれ、北朝鮮が挑発行動を控えていることを受け「イージス・アショア不要論」を展開している。ただ、北朝鮮は核・ミサイルの廃棄に向けた具体的な動きを何一つ示していない。
 白書があえて「米朝首脳会談後の現在においても北朝鮮の核・ミサイルの脅威についての基本的な認識に変化はない」と指摘したのは、一時的な足下の情勢変化によって防衛政策が左右されることはないとのメッセージともいえる。
 北朝鮮への危機感を鮮明にした一方、中国に対する脅威認識は「日本を含む地域・国際社会の安全保障上の強い懸念」だとし、前年とほぼ同等の書きぶりとなっている。しかし、中国軍による日本周辺での活動は、この1年を振り返っても明らかに先鋭化している。
 今年1月、中国海軍の潜水艦が潜没したまま尖閣諸島(沖縄県石垣市)の接続水域を初めて航行した。4月には太平洋上で空母「遼寧」から複数の艦載機が飛行するのも初めて確認された。中国軍機が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に飛んだ回数は、28年は5回だったのに対し、29年は18回に増加している。中国公船による尖閣諸島周辺への領海侵入も継続している。
外交的配慮
 それにも関わらず、白書は事案の列挙と意図分析にとどまり、直接的な警鐘や批判は避けた。背景には、関係改善を模索する中国への「外交的配慮」があるとの見方も出ている。
 安倍晋三首相(63)は10月下旬の訪中を予定しており、関係改善に強い意欲を示しているが、自民党国防族の一人は「中国軍の脅威が増しているのは誰が見ても明白だ。北朝鮮に対する姿勢を強める一方、中国への脅威認識を変更しないというのはダブルスタンダードだ」と話す。
 防衛省幹部はこの点について「防衛白書は首相の答弁や政府見解などをベースに策定するが、中国についての脅威認識を変更するという方針は出ていない」と説明する。中国の軍拡や日本周辺での活動への懸念が高まっていることは認めつつも、記述ぶりが前年と同様だったことについては「あくまで『総合的な判断』だ」と述べるにとどめた。
 ちなみに、中国外務省報道官は30年版防衛白書に対し「中国の正常な国防建設と軍事活動を非難し、中国の正常な海洋活動に対しいい加減なことを言うのは、極めて無責任だ」と批判した。
 効果的な防衛政策を打つには、その前提として正確な脅威認識が必要となる。そこに配慮や忖度(そんたく)が入っているとすれば本末転倒になる。安全保障の現状と課題を周知するという防衛白書の趣旨からも、大きく外れることになる。 (政治部 石鍋圭)
 防衛白書 昭和45年に初めて刊行され、2回目となった51年版以降は毎年刊行している。平成15年版からは「日本の防衛」とのタイトルが付いている。防衛省のサイトなどからPDFで閲覧することができるほか、30年版では巻頭特集で「拡張現実(AR)」技術を使い、ページを専用アプリで読み取ると、スマートフォンに弾道ミサイルの迎撃をイメージした動画が映し出されるようにする工夫を加えた。