「中立」「公平」「公正」さを建前に…ニュースキャスターの時代は終わった 木村太郎氏

iRONNA発
米ケーブルテレビの人気ニュース番組で「司会者」を務めるレイチェル・マドー氏 (AP)

 テレビをつければ、どの局も代わり映えのない情報番組ばかりである。しかも、キャスターに起用された芸能人が、ニュースに関してどや顔でコメントする場面に出くわすこともある。そこに深みもなければ、説得力もない。キャスターの役割とは一体何なのか。

 「トランプ大統領のいわゆるロシア疑惑については、これまで何の証拠も見つかっていません。それなのに(疑惑を捜査している)モラー特別検察官の応援団の民主党関係者は、絶望的になって大統領をおとしめる材料を必死に探しています」(FOXニュース『ハニティー』ショーン・ハニティー氏)

 「昨年の大統領選で当選すべくもない候補者が当選し、その人物がロシアと特別な関係があることが判明した以上、われわれはこの問題を集中的にお伝えしなければならないのです」(MSNBC『レイチェル・マドー・ショー』レイチェル・マドー氏)

 今年第2四半期で、米国のケーブルテレビ・ニュース視聴者数が1位、2位だった番組(TVニューザー調べ)の司会者の発言である。トランプ大統領に対する立場は正反対だが、2人の発言は「中立」さや「公平」さとはほど遠い主義主張をむき出しにしている。

 肩書を「司会者」としたが、彼らはもはや日本でキャスターといわれる「アンカー」ではない。放送局も「ホスト」「ホステス」と呼び、役割も全く変わっているからだ。

 かつての「アンカー」は、記者やカメラマンが取材しディレクターが編集したニュースをリレーの最終走者アンカーのように視聴者に提供する役割とされ、自分の考えをひけらかすのはタブーだった。

 ◆主役はニュース専門局

 アンカーによるニュースは今もCBS、NBC、ABCの3大ネットワークに引き継がれてはいるが、今やテレビニュースの主役はケーブルテレビの24時間ニュース専門局の番組である。

 ニュース専門局の収益は10年間で280%増加し、昨年は3社合わせて50億ドル(約5500億円)に上った(ピュー・リサーチセンター調べ)。ニュース専門局間の競争も激化していったが、その争いの火に油を注いだのが、米国政府が放送局に課していた「公平の原則」を撤廃したことだ。

 「国民の財産の電波は有限だからその利用には公共性が求められる」というのがその根拠だったが、ケーブルテレビなどの普及で、電波は「有限」ではなくなったという理由で「公平原則」は1986年に撤廃された。

 放送で偏った番組を放送しても「公共の活発な意見交換を助する」と許されることになり、ニュース専門局はCNN、MSNBCが民主党系、FOXニュースが共和党系と旗幟(きし)を鮮明にして視聴者の獲得を競っている。

 その競争の主役が「司会者」で、彼らの発言が視聴者数を左右し、ひいては放送局の経営をも影響することになる。冒頭で紹介したハニティー氏も、超保守派の論客として知られ、歯に衣(きぬ)着せぬ発言で敵が多く、常にボディーガードが氏の周辺を守っているといわれる。

 とはいえ、インターネット上の動画配信が日常化していく時代には「悪貨が良貨を駆逐する」ように、新しいネット放送のホストたちがケーブルテレビの先人たちより、さらに過激な放送をするだろうことは容易に想像できる。

 ◆日本も「司会者」の時代

 翻って日本のテレビニュースはどうか。今のところはキャスターという肩書の人たちが「中立」「公平」「公正」さを建前にニュースを司会しているように見える。しかし、ニュースの後に蛇足のようにつけ加える「後説(あとせつ)」で自らの思いを吐露するのが、もはやアンカーに求められる規範を逸脱しているのではないか。

 さらに、「政治的な公平性」などを求めた放送法4条の撤廃も論議され始めており、加えて放送法の規制を受けないネットテレビも当然増えることが予想されるので、米国のようにキャスターに代わって「司会者」が幅を利かせる時代が来ると考えた方がよいだろう。

【プロフィル】木村太郎

 きむら・たろう フリージャーナリスト。1938年、米国生まれ。慶応大法学部卒。昭和39年にNHKに入局し、社会部記者やアメリカ総局特派員として勤務。58年から「ニュースセンター9時」のメーンキャスター。NHK退職後はフリージャーナリスト、キャスター、コメンテーターなどとして活動。

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