NAFTAから透ける日米交渉 米の脅し「数量規制」「為替条項」 中部大特任教授 細川昌彦

日曜経済講座

 北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しをめぐる米国とカナダの協議が大詰めだ。先月29日に米国とメキシコは大筋合意したが、公表された内容に衝撃が走った。域内での自動車関税ゼロの条件として、第1に域内部品調達率を62.5%から75%に引き上げる。第2に部品の40~45%について時給16ドル以上の地域での生産を義務付ける。これは事実上、米国製の調達を増やす。自動車産業に北米での生産体制の抜本見直しを迫る。

 しかし、その後判明した内容はさらに衝撃的だった。メキシコは2つの「毒まんじゅう」を食べてしまったのだ。数量規制と為替条項だ。

 数量規制は、米国への乗用車輸出が240万台を超えると、25%関税が課されるというものだ。米国は現在、自動車輸入への追加関税を検討している。メキシコは「25%の追加関税を免れるための保険」と成果を説明するが、これこそ米国の思うつぼだ。昨年実績が約170万台なので、今後4割程度増やす余地がある、と安易に考えたのだろうが、あと数年で240万台に達するだろう。

 これでは北米自由貿易協定ではなく、「北米管理貿易協定」だ。数量規制は関税引き上げよりも自由貿易をゆがめるので、世界貿易機関(WTO)の協定上、禁止されている。自由貿易の根幹を揺るがす問題だ。

 かつて1980年代の貿易摩擦において、日本は鉄鋼の対米輸出自主規制に追い込まれた。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表はその成功体験を持つ。そして日本は日米半導体協定のように、いったん安易に「管理貿易」で譲歩すると米国はかさに着て要求を強めてくる、という苦い経験もした。

 今、塗炭の苦しみを味わっているのが韓国だ。3月、米韓自由貿易協定(FTA)の見直しが合意され、鉄鋼の追加関税の免除と引き換えに、米国への鉄鋼輸出の数量規制をのまされた。当初、うまく追加関税を免れたとしていたが、大きな落とし穴があった。運用で米国にがんじがらめにされて、悲惨な状況になっているのだ。韓国からは後悔の声が聞こえる。

 韓国に対して鉄鋼で、メキシコに対しては自動車で、米国は「高関税で脅し、数量規制をのませた」。これが米国の手法で、味を占めてしまった。しかし、世界の通商秩序の根幹を揺るがすもので、これを米国に許すと将来、巨大市場を有する中国も同様のことをしてくるかもしれない。

 為替条項が盛り込まれていることも要注意だ。輸出を促進するために。競争的な通貨安誘導を控えることは、これまでも国際的に合意されてきた。これを一層強化した形で2国間協定に盛り込んでいる。米韓FTAの見直し合意でも、競争的な通貨切り下げを禁じたり、金融政策の透明性と説明責任をコミットする条項を、強制力のない「付帯協定」として盛り込んだ。

 本来、通商と為替は切り離し、金融政策に通商政策を立ち入らせない不文律がある。それが財務当局間の“暗黙の了解”だった。かつて米国議会が為替条項を通商協定に盛り込むよう圧力をかけても、行政府は一線を死守してきた。ところが、トランプ大統領は政権発足時から2国間協定を志向し、協定には為替条項を盛り込む方針を打ち出して各国の警戒を招いていた。

 そして、その一歩が踏み出されたのが韓国だった。為替介入への事実上の牽制(けんせい)効果を狙ったもので、今回はメキシコがのまされた。メキシコは通貨政策は縛られないと説明するが、内容は不透明だ。

 今月には米国と欧州連合(EU)の貿易協議が予定されている。日本も米国との経済対話、首脳会談とヤマ場を迎える。米国はEU、日本に対しても同様の交渉手法で臨むだろう。自動車の高関税で脅しながら、自動車の数量規制と牛肉の関税引き下げを求め、併せて為替条項も要求してくるかもしれない。

 これにどう対応するかが問われる。数量規制については「実害のない数量が確保できればよい」といった安易な考えは、将来に禍根を残す。為替条項については「強制力がないので、影響はない」というのも甘い。80年代の日米交渉でもあったが、米国が徐々に圧力をかけて来るきっかけにもなる。アリの一穴と心得て、交渉に臨むべきだ。日本とEUは「毒まんじゅう」を阻止する戦いの胸突き八丁にさしかかっている。

 <ほそかわ・まさひこ>昭和52年、通商産業省(現経済産業省)入省。米州課長、中部経済産業局長などを歴任。平成21年から現職。