【政界徒然草】サマータイム“4度目の正直”なるか 日本では導入→欧州では廃止検討のタイミング - 産経ニュース

【政界徒然草】サマータイム“4度目の正直”なるか 日本では導入→欧州では廃止検討のタイミング

2020年東京五輪・パラリンピックに向け建設中の新国立競技場。サマータイムは酷暑対策の切り札となるか=7月23日、東京都新宿区
8月7日、首相官邸を訪れた東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(左)と談笑する安倍晋三首相
日差しが照りつける中、皇居周辺をランニングするランナー=8月5日、東京都千代田区(桐原正道撮影)
菅義偉官房長官はサマータイム導入に慎重な姿勢を示している=8月6日、首相官邸
 夏の時間を1~2時間繰り上げるサマータイム(夏時間)導入の是非を検討する議論が自民党で始まる。議員立法による法案提出を視野に研究会を立ち上げる方針だ。日本では導入論が浮かんでは消え、議員連盟が3度にわたり法案をまとめたが、提出には至らなかった。今回は2020年東京五輪・パラリンピックの酷暑対策の“切り札”として浮上。「4度目の正直」となるかが注目される。
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 「国民の関心は高い。やるということになれば国民生活に影響する。業界にもいろいろな意見があるだろうから、党部会などで意見聴取してほしい」
 8月7日、安倍晋三首相(63)は五輪組織委員会会長の森喜朗元首相(81)と会談した際、同席した遠藤利明・自民党2020年五輪・パラリンピック東京大会実施本部長(68)にサマータイム導入の検討を指示した。森氏は7月27日にも五輪の暑さ対策として導入を要望していた。理由は今年の記録的な猛暑だ。
 「1週間以上続いている猛暑は五輪の開催時期についての疑問を再燃させた」
 「暑さで選手や観客が危険な状況にさらされることへの危機感が高まっている」
 7月下旬、米経済誌ウォールストリート・ジャーナルや英国のガーディアンなどの海外メディアからこうした東京五輪開催を不安視する報道が相次いだのだ。そこで抜本的な対策として浮上したのがサマータイムだった。
 時間を1~2時間繰り上げれば、午前7時に開始予定のマラソンは現在の午前5~6時にスタートできる。比較的涼しいうちに競技を終え、観客の負担も軽減できるという訳だ。
郵政解散も影響
 サマータイムは日照時間の長い夏に一斉に時間を1~2時間繰り上げ、明るい時間を有効活用する制度だ。第一次大戦の頃から、西欧を中心に資源・エネルギーの節約を主な目的に始まった。緯度が高く、夏と冬で日照時間の差が大きい地域で実施されることが多く、欧州や米国を中心に約70カ国(2009年)で導入された実績がある。
 米国では「デイライト・セービング・タイム」と呼ばれ、3月の第2日曜日の午前2時に時計の針を1時間進めて夏時間とし、11月の第1日曜日の午前2時に標準時間に戻す。英国では3月の最終日曜日の午前1時に1時間進め、10月の最終日曜日の午前2時に1時間戻す。
 日本でも終戦直後に深刻な電力不足に見舞われ、連合国軍総司令部(GHQ)の指示で昭和23年に実施された。ただ、労働時間が伸びた上、「疲れる」などと反発の声が上がり4年後に廃止された。
 しかし、導入論はその後も浮上した。平成5年には通産省(現経済産業省)にサマータイム制度懇談会が設置され、石油危機を背景に7年の導入を目指したが、先送りされた。同年、超党派の議員連盟が発足して法案をまとめたが、提出は見送られた。
 16年に新たな議連が結成され、会長の平沼赳夫元経産相(79)が「明るい時間を有効に使えば省エネになる」と導入を訴え、17年に法案をまとめた。20年にも洞爺湖サミットを控えて省エネ機運が高まり法案提出を目指したが、断念した。いずれも反対意見が多かったとの理由ではなく、17年の郵政解散や20年のねじれ国会などが影響した。
名目家計消費が7532億円増える
 サマータイムは省エネ効果や温室効果ガスの削減による低炭素社会の実現のほか、「アフター5」にレジャーを楽しんだり、地域のボランティアに取り組んだりする効果も指摘される。通学・通勤時間が明るい時間帯になれば交通事故や犯罪の減少も期待できる。
 導入による経済効果を期待する声もある。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、日常生活時間が3カ月間、2時間繰り上がることでアフター5の日照時間が2時間増えれば、名目家計消費が7532億円増えると試算する。
 ただ、サマータイムの導入には慎重論が根強い。時刻設定などのシステム変更に伴うコスト増を懸念する声があるほか、生活リズムや体調変化への影響、終業時間になっても外が明るいため「残業が増える」といった意見も多い。
 永浜氏は「導入コストがかかることで企業の設備投資が押し上げられる可能性がある」とする一方、「勤務時間が増えれば経済効果は縮減される」と指摘。経産省関係者も「10年前の想定よりもITが広がり、航空・鉄道のダイヤ変更や病院の医療機器の設定など命に関わる問題もある」と丁寧な議論を求める。
「五輪レガシー」にも
 サマータイム導入の是非を検討する自民党の研究会は月内にも立ち上がる。しかし、導入済みの欧州連合(EU)では健康や睡眠への悪影響を示唆する研究成果などへの関心が高まり、フィンランドが廃止を提案。8月16日までEU行政執行機関の欧州委員会がパブリックコメントを行い、8割以上が廃止を支持したため、欧州委は欧州議会などに廃止を提案する。
 こうした動きについて自民党のスポーツ関係議員は「パブコメには反対意見が集まりやすいもの。EUの動きを見ながら議論を進めていく」と語る。
 今回の主な導入目的は五輪の酷暑対策だが、通勤・通学の負担軽減にもなる。余暇が充実し、生き方改革につながれば「五輪のレガシー(遺産)」になる可能性はある。(政治部編集委員 長嶋雅子)