【酒と海と空と】3年目の「辛口産経」造り(4) いよいよ仕込み、巨大タンクに大量の米を投入 - 産経ニュース

【酒と海と空と】3年目の「辛口産経」造り(4) いよいよ仕込み、巨大タンクに大量の米を投入

作業の合間には大量の水を使って後片付けする場面も多い。かい棒に水をかけて洗う記者
冷やした米を脚立の上の蔵人に渡し、豪快にタンクに投入していく
へっぴり腰になりながら懸命に「かい入れ」をする記者
「切り返し」で、ばらばらになった米を箱に盛る杜氏の中野徳司さん
 産経新聞社が、佐渡の地域振興を支援しようと始まったオリジナル酒「辛口産経」の製造が今年で3年目を迎え、新潟支局の若手、入社2年目の太田泰記者が1週間、佐渡に泊まり込んで酒造りを体験した。その様子を6回にわたりリポートする。
もっと“ごりごり”させて…
 7月16日。佐渡に来てから4日目。1週間の作業工程と聞いたときは、とてつもなく長いように思ったが、いざ身を投じてみると短いように感じる。今日も午前7時半に学校蔵に集合。尾畑酒造からプレゼントされた手ぬぐいをギュッと頭に巻き付け、麹室へ向かう。テーブルの上に鎮座している米の塊は、前日の朝に蒸し上がった60キロの米。毛布にくるまれてテーブルの上に堂々と身を横たえる様は、なんとなく特撮映画に出てくる蛾の怪獣「モスラ」の卵を彷彿(ほうふつ)とさせる。「小美人」(モスラの巫女(みこ)の2人の妖精。昭和36年の映画『モスラ』では、双子の歌手『ザ・ピーナッツ』が演じた)の歌声が、今にも聞こえてきそうだ。
 場面を麹室に戻す。室温は今日も32度と、相変わらず蒸し暑い。まずは巨大なしゃもじのような木製の「ぶんじ」を使い、米に分け目を入れるようにして崩す。昨日よりも幾分粘り気が落ちたのか、ぶんじはサクサクと入る。その後は、自分の手を使って米を粉々にしていく。
 蔵人の瀬下要さん(35)から「もっと両手の指を伸ばして、『ごりごりさせる』ような感じで」とアドバイスを受ける。粉砕した米は自分の手前からどんどん奥にやり、まだ塊になっているものを手前に引き寄せ、粉々になったら、また奥へやるのをひたすら繰り返す。これが「切り返し」だ。
 粉砕した米を中央に寄せると、今後は杜氏の中野徳司さん(42)が、箱に米を均等に振り分けていく。その後、振り分けられた米を、箱の中で平らになるように手でならし、白いシーツをかぶせて寝かせる。
冷蔵庫の中はやっぱり…
 さて、いよいよ今日から酒造りの肝となる「醪(もろみ)」を作る。この工程が「仕込み」と呼ばれる。酵母菌を適切に繁殖させるため、仕込みは「添え」「仲」「留」の3段階に分けて行われるのが通常だ。今日はその中で最初の「添え」に取りかかる。
 仕込み室で、昨日の午後イチに洗米と浸漬(しんせき)を終えた米75キロが蒸し上がる。すると、中野さんがタンクの裏からのっそりと現れ、蒸し具合を確認し始めた…。あまりに自然な感じで出てきたので、「そんなところで何をしていたんですか」という疑問も頭から飛んでしまった。その後はいつものように布の上で米を崩し、「放冷」させていく。何度目かの作業を経て、自分を含めた体験者たちの手つきも良い…、というのは自画自賛が過ぎるかもしれないが、初めの頃に比べると一つの作業を終えるのも早くなっているのを感じた。
 今回は麹づくりの時とは違い、米をより低い温度まで冷やす必要があるため、熱がまだ残っている塊は冷蔵庫に入れられる。冷蔵室で作業をする蔵人の1人、高津知幸さん(23)の仕事を補佐するために、「寒さに強い人がだれか1人行ってくれないか」と中野さんに言われたので、2月生まれの私が向かった。
 分かっていたが、冷蔵庫の中はやっぱり寒い。温度計を見ると…5度だ。朝の麹室と比べると30度近い温度差で、たまらず歯をならすと、高津さんが「今回は冷やすのは15度くらいまでですが、『仲』は10度、『留』になると8度くらいまで冷やします」と教えてくれた。
 しばらくして、冷やし終わった米をもう一度、仕込み室に運ぶ。巨大なタンクの前の脚立に上っている瀬下さんに布ごと手渡すと、瀬下さんが豪快に米をタンクに投入していく。タンクの中には昨日投入した●(酵母を大量培養させたもの)と麹、そして水が入っている。
タンクに落ちないように…
 次は3メートルほどのモップのような外見をしている「かい棒」を使い、タンクの中をかき混ぜていく「かい入れ」。これだけ聞くと、単純な作業のように思うかもしれないが、実は力と根気のいる作業。タンク内に沈殿する乳白色の塊は弾力があり、かいを引き抜くときに、後ろに倒れそうなほどの抵抗を感じる。「かいを引き抜くときが一番攪拌(かくはん)されるので、全体をまんべんなくスタンプを押していくような感じでお願いします」と瀬下さん。瀬下さんの後に自分の番がきたが、タンクに墜落しないよう、おっかなびっくりの作業だ。脚立の上でへっぴり腰ながら、かい棒でひたすらタンク内を突いた。
 「添え」が終わると、今度は仕込み4号用の●を作る(今回、われわれが作っているのは仕込み3号。4号では別の酒を造ることになる)。●を作るのには2週間ほどの期間が必要になるので、このタイミングで事前に作っておくのだ。いつもの洗米と浸漬を終え、ようやく午前中の作業が終了。午後からは再度かい入れをして、温度が適切かどうかを検温。その後は再度麹室で麹づくりを行った。
気がつけばヒグラシが…
 当日の昼頃には、尾畑酒造の専務、尾畑留美子さんが作業の進み具合を見に学校蔵に訪れた。旧真野町(現佐渡市)で尾畑酒造の次女として生まれた尾畑さんは大学卒業後、日本ヘラルド映画(当時)に入社。宣伝プロデューサーとして活躍した後、酒蔵を継ぐため佐渡島に戻ったという経歴の持ち主だ。笑顔がすてきな人で、先輩記者が尾畑さんのことを「いると自然とその場の空気も明るくなる人」と評したのがよく分かる。体験者たちには島での生活や、日本酒造りのおもしろさを分かりやすく、丁寧に教えてくれる。
 夕方には麹室での作業も終わり、今日の全ての作業が無事終了した。気がつけば、学校蔵の木造校舎にも紅の西日が差し込み、ヒグラシが鳴く時間になっていた。7日間の酒造りも、いよいよ折り返し点。もう一踏ん張りだ。(太田泰)