みだらな言動、性的関係要求まで…介護現場の「ハラスメント」深刻 厚労省が初の実態調査へ - 産経ニュース

みだらな言動、性的関係要求まで…介護現場の「ハラスメント」深刻 厚労省が初の実態調査へ

介護現場では、利用者らによるセクハラなどの被害が続出している(写真と本文は関係ありません)
 介護現場で働く人の一部が、利用者や家族による「セクハラ」や「パワハラ」に悩まされている。被害者は強いストレスを感じているが、多くは一人で抱え込み「ハラスメント(嫌がらせなど)を受けるのも仕事の内」などと我慢を強いられている状況だ。厚生労働省は被害の把握に向け実態調査を初めて行う方針で、人材不足が深刻化する介護業界の労働環境改善につなげたい考えだ。(社会部 三宅陽子)
「キスさせて」…
 「このままでは、介護保険制度は働く側から崩壊する」。介護従事者らでつくる労働組合「日本介護クラフトユニオン」(久保芳信会長)は8月9日、厚労省を訪れ、現場で横行するハラスメント被害を訴えた。
 同ユニオンが訪問介護従事者らに行った調査では、回答した約2400人のうち、約3割が利用者や家族からのセクハラを経験したと回答。受けたセクハラの種類(複数回答)は「不必要に個人的接触をはかる」が53・5%と最多となった。
 関係者を絶句させたのはその内容だ。寄せられた具体事例には「下半身を見せて」「キスさせて」といったみだらな言葉を浴びせられたほか、「訪問時に全裸で出迎えられた」「アダルトビデオを流された」といった訴えも。「介助中に体をなめられた」「利用者の息子に寝室につれ込まれ、体中を触られた」など深刻な被害も多く報告された。
 パワハラ経験者は回答者の約7割に上り、「大声で怒鳴られた」「契約外のサービスを要求された」などの内容が目立った。中には突然、顔を殴られたり、唾を吐かれたりといったケースもあっ
「我慢」強いる風潮
 こうした行為には認知症などの病気が影響を及ぼす場合などもあるとされるが、現場関係者の多くが「ハラスメントの発生原因」として指摘したのは、「介護従事者の尊厳が低く見られ、ストレスのはけ口になっている」という点だ。訪問先では利用者らと2人きりになる状況も多く、被害が発生しやすいとの声もある。
 ただ、こうした分析がなされていても「誰にも相談しなかった」と話す介護従事者は多い。上司らに報告したとしても対応してもらえず、変化がない状況が続くことも少なくない。
 「被害はハラスメントの域を越えているものが非常に多いが、現場には、『介護職は我慢するのが当然』『(ハラスメントを受けるのも)介護の仕事』とされる風潮があり、一人で抱え込んでしまう人が少なくない」。同ユニオンの村上久美子副事務局長はそう指摘する。被害を受け、精神疾患や離職につながったケースも明らかになっている。
組織全体で対応を
 職場環境の悪化は労働者の心身をむしばむばかりでない。深刻化する介護業界の人材不足に「拍車をかける」との危機感も高まっている。
 厚労省の推計によれば、平成37年度に介護職員は約34万人不足するとみられる。現場ではハラスメント報告を受けると、「担当者を変える」などの対策も講じられてきた。危害は職員が1人の時に加えられることから「複数人での訪問」を模索する動きもある。一部自治体では、暴力などのリスクがある利用者を介護職らが2人で訪問した際の費用補助を始めた。
 ただこうした動きはまだ限定的だ。厚労省はハラスメント被害の訴えを受け、訪問介護職や訪問看護職を対象に、実態調査に乗り出すことを決定。結果を踏まえ今年度中に、対策などを盛り込んだ事業者向けマニュアルを作成する方針だ。
 専門家は介護現場で横行するハラスメントへの対応策をどうみるのか。
 「ハラスメントには組織全体で対応していく必要がある」と指摘するのは淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)だ。
 結城氏は「事業所の管理者は現場からの被害報告に真摯(しんし)に耳を傾け、加害者には、モラルを守るよう毅然(きぜん)とした態度で臨むことが重要だ。危害が続くようであれば、役所などとの連携や職員の撤退も考えていく必要がある」と説明。「利用者側にも、サービスを受ける上での『マナー教育の実施』などが求められる」と語っている。