トランプ政権をどう攻略? “別の道”選んだ日本とEU

ワシントン経済リポート
 日米の新たな閣僚級貿易協議に臨む茂木経済再生相(右)とライトハイザー米通商代表部代表(手前左)=8月9日、ワシントン(代表撮影・共同)

 関税発動をちらつかせ、貿易相手に厳しい姿勢を示すトランプ米政権との協議に、どのような交渉戦術で臨むのか。各国・地域が、そんな米政権の“攻略法”に頭を悩ませている。とりわけ、米政権の対外交渉窓口となり、トランプ大統領の判断を左右する側近を見極める重要性が問われており、トランプ氏との合意に成功した欧州連合(EU)がキーマンとみた、ある政権幹部に注目が集まっている。

本丸はクドロー氏

 7月下旬、米ワシントンで開かれたEUのユンケル欧州委員長と、トランプ氏の首脳会談をめぐり、会談成功を事前に“予言”した人物がいる。今年春に政権入りした国家経済会議(NEC)のクドロー委員長だ。

 クドロー氏は会談前週、インタビューで「(ユンケル氏が)大胆な提案をする」と発言。会談直前にはテレビ番組で「皆さん、成果を聞いてびっくりすると思うよ」と語った。

 エコノミスト出身のクドロー氏は、テレビのコメンテーターとして有名だ。2016年大統領選でトランプ陣営に参加し、トランプ氏とも気脈が通じているとされる。

 そのクドロー氏の想定通り、米国の鉄鋼輸入制限をめぐって対立するEUと米国との協議は、不調に終わるとの下馬評を覆し、工業製品の関税撤廃に向けた協議開始で合意。米国が検討している自動車・部品の輸入制限を念頭に、協議中は関税発動を控えることでも一致した。

 首脳会談後、協議の舞台裏を報じた欧米メディアによると、EUは米政権との事前折衝で、「大統領の『耳』の役割回り」(EU幹部)を担っているとみたクドロー氏に接近。会談前夜にユンケル氏側近が、ワシントンのホテルで面会したクドロー氏に合意の腹案となる資料をみせ、根回しをしていたという。

 米政権で本来、通商協議を担当するのは、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表だ。クドロー氏との折衝と並行して、EUのマルムストローム欧州委員(通商担当)がライトハイザー氏と面会したが、EUがトランプ政権攻略の「本丸」としたのはクドロー氏だった。

 トランプ氏はユンケル氏との約3時間にわたる会談で、EU側が示した米産大豆や液化天然ガス(LNG)の購入拡大策を気に入り、その場で両首脳による合意発表の記者会見を決めた。

 「ありがとう、ジャンクロード」。トランプ氏は会見で、ユンケル氏のファーストネームを呼んで、謝意を示した。

 輸出拡大を重視するトランプ氏は11月の中間選挙を見据え、貿易相手に一段と厳しく譲歩を迫るとの見方があった。EUとの合意を受け、貿易摩擦の激化を懸念する金融市場では、「米政権が選挙向けの成果のとりまとめに入り、姿勢を軟化させるのでは」との観測も浮上した。

 そうした中、トランプ政権の方向性を占うとして注目されたのが、8月9~10日に実施された日本との閣僚級の新たな貿易協議だ。自由(free)、公正(fair)、相互的(reciprocal)の頭文字をとって「FFR」と称された同協議は、日本側が茂木敏充経済再生担当相、米国側がUSTRのライトハイザーを交渉担当となった。

因縁の相手

 日本政府としては、米政権の本来の通商担当トップである同氏を相手方としたが、ライトハイザー氏は1980年代、USTR幹部として対日交渉に従事し、日本側に鉄鋼輸出の自主規制を突きつけた“因縁の相手”でもある。2日間の閣僚協議は、まずは双方の「相互信頼」に基づいた協議継続で一致。本格協議は9月に予定される次回の交渉に持ち越しとなった。

 ライトハイザー氏は過去の議会証言などで、米国にとって公正な貿易を勝ち取るために、追加関税の発動も辞さない強硬な考えを披露してきた。実際、トランプ政権下でまとめた韓国との自由貿易協定(FTA)見直しでは、やはり鉄鋼輸入量の割当制を韓国側に飲ませている。

 米ホワイトハウス内で、トランプ大統領に助言する側近のうち、ライトハイザー氏や、中国への対抗姿勢を示すナバロ大統領補佐官(通商製造政策局長)らが、対外姿勢の「強硬派」とされる。一方、クドロー氏やムニューシン財務長官は、金融市場に通じ、自由貿易を重視する「穏健派」に位置づけられる。

 日本政府はFFRで、「こわもて」のライトハイザー氏を交渉相手に選んだわけだが、関係者によると、政府内には「クドロー氏にアプローチすべきだ」との意見もあったという。日本政府内や産業界には「茂木-ライトハイザー会談」の行方に気をもむ向きもある。

 ただ、穏健派に属するムニューシン氏が担当した5~6月の中国との閣僚協議では、いったんは米中両政府が合意したはずの「関税の棚上げ」が、なし崩しになった。米国は7月上旬、知的財産侵害を理由とした巨額の対中制裁を発動。中国側も即座に報復措置を実施し、米中の対立は泥沼化している。

 米国とEUは最終的な合意に向けて協議を急ぐが、米中協議のような大統領の“心変わり”の可能性は排除できない。ライトハイザー氏は政権内でもっとも貿易問題に通じており、トランプ氏への影響力は依然として大きい。EUと中国、日本は、異なる米政権のキーマンを交渉相手に選んだが、最終的な「トランプ政権攻略法」の答えは、まだ明らかではない。(ワシントン 塩原永久)