お手本に見る「IR」の2つの課題 依存症と外国人就労の議論を 大阪本社経済部長 内田博文

日曜経済講座

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)実施法が7月に成立し、全国で最大3カ所となるIR設置区域の認定に向けたプロセスが動き出す。政府や自治体は、IR導入で大きな経済効果を上げたシンガポールの成功例を踏まえ、訪日客拡大と経済活性化に期待を寄せる。米IR運営大手ラスベガス・サンズが運営するシンガポールのマリーナベイ・サンズの事例を元に、今後日本で想定される効果と課題を検証したい。

 2010年に開業したマリーナベイ・サンズはタワーホテル3棟を連結し、屋上にプールを設けた印象的な外観で知られる。6月の米朝首脳会談の際には、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が観光に訪れたことでも注目を集めた。

 シンガポールは05年に、厳格な依存症対策などを条件にカジノを解禁。マリーナベイ・サンズは、国際会議や展示会などを誘致するMICE事業における地域の価値向上を目的に建設された。ホテルに隣接するコンベンションセンターは5階建て、約12万平方メートル、収容人員は約4万5千人と東南アジアで最大の規模を誇り、17年には70件の国際的な展示会を含む3500件のイベントが行われた。

 マリーナベイ・サンズなど2件のIR導入により、シンガポールを訪れた外国人客は導入前の09年(970万人)から、17年には1740万人と約8割増えた。また、開業から5年間で国際会議の開催件数は23%増えたという。マリーナベイ・サンズのジョージ・タナシェビッチ社長は「10年から17年までの間に、49億ドル(約5500億円)の税収増をもたらし、9500人の新規雇用を創出した」と胸を張る。

 こうしたシンガポールの事例はIR誘致に積極的な大阪府・市にとって魅力だ。関西経済同友会常任幹事の福島伸一・大阪国際会議場社長は「年間数百億円規模の税収や納付金に加え、10万人規模の雇用効果、ローカルコンテンツの活用による中堅・中小企業のビジネス拡大などが期待される」とIRによる関西での経済効果を強調する。

 ただ、シンガポールの事例からは日本におけるIRの課題もみえてくる。一つはカジノ利用者の比率、もう一つは外国人労働者の問題だ。

 8年間で5500億円規模のマリーナベイ・サンズの税収・納付金のうち、カジノによる収益は75%を占めるが、一日あたり1万~2万人とされるカジノの来場者数のうち、シンガポール国民の比率は20~25%にとどまる。一方で日本の場合、大阪府の試算によると、年間約1500人の来場者のうち日本人が8割を占める見通し。カジノ来場者の日本人比率も高くなるとみられる。最大2200万人の来場者のうち日本人が1700万人と約7割を占める見通しだ。

 このため日本のIRにおいては、シンガポール以上に厳格なギャンブル依存症への対策が不可欠だ。政府は日本人客のカジノ入場を週3回、月10回までに制限するほか、毎回6千円の入場料徴収など「世界最高水準の規制」を設けたとしている。だが、より実効性の高い仕組みを作るためにも、IR事業者による利用客への金銭貸し付け業務の詳細な仕組みや、依存症の危険度を左右するカジノゲームの種類など、今後決定する項目については、十分な検討が必要だろう。

 また、雇用で日本における就労外国人の拡大が避けられない。マリーナベイ・サンズによる直接的な雇用拡大は9500人、シンガポールのIR全体では4万3千人以上の新規雇用を生んだとされる。ただ、シンガポールにおける地元雇用の割合は65%にとどまり、3割超は海外からの労働者によるものだ。

 タナシェビッチ社長は「ホテルの清掃やレストランのサービスなど、地元の住民が敬遠する仕事も少なくない。本来は7割程度を地元の雇用でまかなう計画だったが、完全には課題を解決できていない」と打ち明ける。ハウスキーピングは中国からの、飲食ではフィリピンからの労働者が多くを占めているという。

 人口減少が進む日本において、飲食や宿泊などのサービス業は慢性的な人手不足にさらされている。サービス分野の雇用が中心となるIRにおいて、新規雇用を国内労働力だけでまかなえるかは未知数だ。国内の労働需給が逼迫(ひっぱく)した場合、単純労働に従事する外国人労働者の拡大に拍車をかける恐れがある。

 政府は外国人労働者の受け入れ拡大に向け、原則認めていなかった単純労働に門戸を開き、25年までに50万人超の就業を目指す方針を掲げた。だが、将来のIR開業に伴い、さらに踏み込んだ議論が求められそうだ。