【山本一力の人生相談】家族と離れて清々する 私って冷たいのでしょうか? - 産経ニュース

【山本一力の人生相談】家族と離れて清々する 私って冷たいのでしょうか?

イラスト・千葉真
相談
 人とずっと一緒にいたり、べたべたするのが苦手です。夫が単身赴任した時や長男が下宿することになった時は寂しいどころか、これから彼らに煩わされず暮らせると清々した気持ちになりました。
 間もなく長女も家を出て下宿することに。「寂しいわ」と切ない顔で言ってみるものの、内心、同性ならではの批判的な目を私に向けてきた長女と離れられる日を、指折り数える気持ちでいます。
 ママ友には空の巣症候群になってしまう人もいて、私って冷たいのか、異常なのか…と悩んでいます。こんな母親に育てられた長女が将来、夫や子供を愛することができるのか、と不安な気持ちもあります。
 私の話を聞かないのに、酔うと猫なで声で近づいてくる夫も、権威主義で価値観を押しつけてくる実の両親、義理の両親も、ストレスでしかありません。こんなふうにしか家族を思えない私は、これからどう生きていくべきでしょうか。(近畿地方、40代、主婦)
回答
  あなたの生き方、ひととの接し方は、すこぶる正常だ。
 何ら変えることはない。
 立派に子育てを成し遂げておいでだし、家庭も守ってこられたと察せられる。
 長男は巣立ち、長女も間もなく外に出るという。文字で書けば簡単だが、巣立たせるのは覚悟のいる力業だ。
 巣から出したあとも、親の気がかりは終わらない。
 が、まずは確かに巣立たせることこそ、親の責務だ。
 批判的な眼差(まなざ)しも見せる長女は、まだ学業しか知らぬだろう。勉学が評価直結の学生は、学習は大変とて易しい。
 いかほど努力しても、その通りの結果とならぬのが社会人だ。それに気づいたとき、長女の眼差しも変わる。
 ふたりの子を外に出そうとする、その態度は見事だ。
 旦那からも子からも離れて、自由を求めるのも、為(な)すべきをこなしてきたればこそだ。
 池波正太郎さんの随筆には、子育て真っ只中だったころの母親が出てきたりする。
 時に母はひとりで寿司屋に行き、好みの鮨(すし)を摘(つま)んで英気を養っていたそうだ。
 負った責めを果たす者は、まず自分の元気を保つことだ。そのために摘まむ鮨の大事は、だれにも当てはまる。
 両方の実家がともに、かなりあなたに口出しをしているものと拝察する。
 権威主義とは、もしや学歴を指しておいでだろうか。
 そうなら孫の進学・進路にも、散々に口出しをされてこられたのではなかろうか。
 今回の相談を受けたことで、大いなる自戒をした。
 息子・娘が構えた新所帯に対して、頼まれもせぬ口出しは厳に慎むべし、だと。
 近頃の異常気象は、昔の経験は役立たぬどころか、誤りだったりもするご時世だ。
 頼まれぬ限り年長者には「沈黙こそ金」が至言か。
回答者
 山本一力 作家。70歳。平成9年「蒼龍」でオール読物新人賞を受賞しデビュー。14年「あかね空」で直木賞受賞。近著に「牛天神 損料屋喜八郎始末控え」(文芸春秋)、「長兵衛 天眼帳」(角川書店)。
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