【iRONNA発】サマータイム 日本は「2019年問題」でパニックになる? 加谷珪一氏 - 産経ニュース

【iRONNA発】サマータイム 日本は「2019年問題」でパニックになる? 加谷珪一氏

猛暑の中、皇居近くを走るランナー。東京五輪に向け、サマータイム導入の賛否が渦巻いている=東京都千代田区
加谷珪一氏
 最高気温が40度を超えても、さほど驚かなくなったのは気のせいか。こんな猛暑で2年後には五輪が開催される。さすがの政府も、サマータイムの導入を検討し始めたが、国民生活への影響が大きいこの議論を拙速に進めて大丈夫か?
 サマータイムは、朝の涼しい時間帯を有効活用できるほか、外が明るい時間帯に仕事を終えられるので、個人消費も活発になるといったメリットがある。ただ、今回は、こうした全般的なメリットを考えてというよりも、五輪の猛暑対策として涼しい時間帯を活用したいという部分が大きいと考えられる。
 とはいえ、サマータイム導入には情報システムのトラブルというリスクを伴う。あらゆる情報システムは、何らかの形で時間を認識して作業を行っており、コンピューターのプログラムというのはすべて時間をベースに動いているからだ。だが、どのような方法で時間を認識するかはシステムによって異なっている。
 システム内部に時計機能があって、そこで時間をカウントするものもあるし、衛星利用測位システム(GPS)を使って時間を取得するシステムもある。サマータイムを導入する場合には、ある期間だけその時間を早め、その後、元に戻すという作業が必要となるので、時間をシフトする機能を実装していないシステムの場合にはシステム改修が必要となる。
 家庭用機器にも影響
 日本では過去、何度もサマータイムが議論されてきたので、情報システムの中には、サマータイムに対応できるよう時間をシフトする機能をあらかじめ組み込んでいるものもある。だが、すべてのシステムがそうではないため、いざ導入ということになった場合には、あらゆるシステムを検証し、必要なものについては改修を実施しなければならない。
 現代では、複数の情報システムが互いに連携して動作しているので、一つのシステムが時間認識で不具合を起こすと、連鎖的にその影響が広がる可能性がある。既存システムの維持・管理の業務や新規のシステム構築業務に加えて、全システムについて夏時間対応の検証や改修を実施するのは、コスト的にも人員的にもかなりの負担となるだろう。
 情報システムとはいえ、業務用だけが改修の対象となるわけではない。家庭用の録画装置やエアコンなど、身の回りにある、ありとあらゆる機器類について対応が必要となる可能性がある。家庭用機器の場合、時間がずれても致命的な問題にはならないので、一部の製品については利用者にあきらめてもらうという選択肢もあるかもしれない。だが、そうはいかない製品も数多くあることを考えると、このリストアップだけでも大変な作業量だ。
 しかも2019年には、天皇陛下の譲位に伴う皇太子さまの即位による改元が予定されており、システム会社はこの対応に追われている。ただでさえ人手不足で苦慮しているところにサマータイムも入るということになると、システム業界は相当な混乱となるだろう。それだけではない。万が一、情報システムに不具合が発生した場合、社会や経済に対する影響があまりにも大きいという現実を見過ごすわけにはいかない。
 欧米でも賛否両論
 東京は各種のインフラが貧弱であり、五輪開催時に大量に押し寄せる観光客をスムーズにさばけるのか心配する声も多い。こうした中で、システムの不具合による鉄道や航空機のダイヤの乱れなどが発生すれば、それこそ目も当てられない状況となる。
 一部では今回の議論をきっかけに、本格的にサマータイムのメリットについて検討し、恒久的な制度として導入を検討すべきだという意見も出ているようだ。だが、サマータイムについては欧米でも賛否両論があり、総合的なメリットとデメリットを検討するには、相応の時間が必要となる。
 ゆえに、今回のサマータイム導入が五輪の暑さ対策として浮上してきたのであれば、あくまで論点は五輪に絞った方が、議論は混乱しない。リスクの大きさと得られるメリットを比較した場合、得られる結論は、導入見送りということにならざるを得ないだろう。
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 【プロフィル】加谷珪一(かや・けいいち)
 経済評論家。昭和44年、仙台市生まれ。東北大工学部卒業後、日経BP社記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社を経て独立し、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。著書に『教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)など。