新鮮美味「まちなか農業」 大都会の畑も“金農”効果?!

近ごろ都に流行るもの
東京育ちの野菜を届ける、エマリコくにたちの菱沼勇介社長=東京都港区の「トーキョー・ビストロ・スコップ」

 農林水産大臣も感謝状の贈呈を決めた今夏の甲子園の主役、金足農高(秋田代表)の雄姿に農業の底力を感じた人も多いのでは? 余韻冷めやらぬ中、東京では「まちなか農業」への期待が高まっている。ポイントは大都会=大消費地ならではの地産地消の魅力だ。鮮度が高いうちに食べられ、輸送コストも安くあがる。都市農業振興の法整備も追い風だ。ビルの谷間で、●(=歌記号)可美(うま)しき郷(さと)…(金足農高・校歌)を探してみよう。(重松明子、写真も)

東京の農の奥深さ

 フリットの衣をカリッ…。熱々の肉厚シイタケから濃厚な秋の香りがたちのぼった。

 「原木栽培の採れたては風味が違いますよね」。小川颯シェフ(25)が誇らしげにうなずく。フレンチ5年のキャリアとまだ若いが、カウンターの目の前で鮮度を生かした即興的な調理をしてくれる。ナスや梨のみずみずしさ、銘柄豚TOKYO-Xの繊細なうまみ…。東京の農の奥深さを堪能した。

 ここは、東京メトロ赤坂見附駅近くに6月開業した農業発信拠点「東京農村」1階のバル「トーキョー・ビストロ・スコップ」。夜のおまかせコースが3500円など手頃な値段で、ランチのドリンクバーにワインが含まれているのも人気だ。

 「東京産は高いと思われがちですが、地産地消で流通コストが省かれ、市場を通さないため価格も抑えられています」と運営するエマリコくにたちの菱沼勇介社長(35)。

 7年前、菱沼さんら一橋大(東京都国立市)卒業生が「まちなか農業流通モデル」を構築し、事業を立ち上げた。売り上げは、平成25年度の1億2千万円から昨年度は2億3千万円超に倍増。現在、都内107軒の農家と契約し、自社の小売り・飲食6店のほかスーパーなどにも卸している。

 「都内にはおよそ1万軒の農家があるが、販路の拡大が一番の支援になり、農地の保全につながる。農業は地域のネットワーク、健康、環境、景観、まちづくりの要。東京にこそ農業が必要です」と菱沼さんは力説する。

 早朝からワゴン車で農家を回る集荷担当の渋谷祐輔副社長(35)は、「こちらから畑に出向いて野菜を買い取る仕組み。農家の負担を軽くし、生産に専念してもらいたい。お客さんの声を農家に伝え、農家のこだわりや食べ方などの情報を相互に伝える役割もあります」。

東京の土はフカフカ

 集荷先のひとつ、国分寺市の中村農園は江戸時代から続く農家で、冒頭で紹介した赤坂見附「東京農村」の土地・建物所有者だ。

 園主娘婿の中村克之さん(52)によると、都心進出は偶然の産物。畑の一部が都道予定地となり立ち退きを余儀なくされ、代替地に繁華街を選んだ。「若い人たちに、農業って面白いんだぜって、伝える場があればいいなと思っていたので、これはチャンス。コジャレた店で自分の作物が使われるのは、農家のモチベーションになります」

 中村さんが婿養子に入ったのはバブル期。羽振りの良いIT系企業に勤め農業を継ぐ気はなかった。しかし、長女が畑で発した「おじいちゃんのキュウリおいしい」との言葉に農業の価値と愛に目覚めた。「東京の農家は規模が小さいので人の手で丁寧に作っている。東京の土は栄養を与えやすいフカフカの黒ぼく土。よい野菜が育ちます」

 都市農業の安定を図るための法整備も進んでいる。3年前に都市農業振興基本法が施行。今年6月には、都市農地の貸借円滑化法が公布された。後継者のいない畑も貸しやすくなり、就農希望者とのマッチングが進むことなどが期待される。

 甲子園で、選手たちが反り返り唱和した勝利の校歌は詩情豊かに、●(=歌記号)農はこれ、たぐひなき愛…と、土に生きる尊さを称え、土臭いプレーで「農業への関心を高めた」(農水省)。塁上の土埃とともに、食料自給率まで舞上げてくれそうな旋風でした。