台湾・国民党「反日カード」の効果は? 初の慰安婦像、謝罪要求…地方選へ皮算用

国際情勢分析
14日、台湾南部・台南市で、除幕した慰安婦像を見上げる馬英九前総統(田中靖人撮影)

 台湾の野党、中国国民党が11月の統一地方選に向け「反日」カードを繰り出している。福島など5県産食品の輸入解禁に反対する住民投票を地方選と同日に行うための署名集めを7月下旬に開始。8月には南部・台南市に台湾初の「慰安婦像」も設置した。いずれも民主進歩党政権が「日本に弱腰だ」と印象付け、有権者の反感をあおる戦略だが、どの程度の効果があるかは見通せない。

住民投票で票集め

 国民党のカク龍斌(りゅうひん)副主席は7月24日、台北の党本部で、住民投票に向けた署名集めの開始を宣言。「民進党は日本の機嫌を取るために核被災地区の食品輸入をあきらめない」と訴えた。会合には台北市長選などの候補者も出席し、「核食(核被災食品)」と書かれたゴミをゴミ箱に入れるパフォーマンスをしてみせた。

 国民党は同時に「反大気汚染」の住民投票の運動も進めている。火力発電所の新規建設の反対と、火力発電による発電量を下げていくことに賛同を求める投票だ。だが、大気汚染の主な原因は、自動車などの排ガスや中国からの流入。科学的根拠を無視して市民の不安をあおる手法は日本食品の輸入問題と共通で、地方選で政権批判票を集めたい思惑が先行している。

 国民党は8月27日、いずれも必要な28万人分を大きく上回る50万近くの署名を集めたと発表した。

歴史問題で独自の主張

 慰安婦記念日の8月14日に台湾南部・台南市の党支部で行われた「慰安婦像」の除幕式では、馬英九前総統が独自の主張を展開した。

 馬氏は日中戦争で1937年12月に中華民国の首都、南京が陥落した後、「日本軍による組織的な虐殺、強姦、放火、強奪により30万人が死亡した」と主張。強姦された女性は「何万人」にも上るとした上で、「日本軍の狂った暴行と破壊的な軍紀は全世界から強い非難を招き、天皇ですら衝撃を受けた」と述べた。

 馬氏はそのことが慰安所設立の原因だとした上で、中国大陸、韓国、フィリピン、インドネシア、台湾から「誘拐、脅迫や詐欺の手段で、婦女が強制的に慰安所に連れてこられた」と主張。慰安婦の人数は「中国大陸と韓国からそれぞれ約20万人」などとする見解を披露した。

 「昭和天皇が南京事件に衝撃を受けた」との説について、産経新聞は馬氏の事務所に根拠を問い合わせたが、25日現在、回答は得られていない。

 また、馬氏は式典で、日本政府に「正式な謝罪と賠償」を要求。民進党政権が発足後2年間、この問題で日本に意思表明をしていないと批判した。

 一方、多数の日本人記者が取材に来ていることに気づくと、自身の任期中に日本統治時代の技師、八田與一の記念公園を整備したことや、東日本大震災後にテレビに出演して義援金を呼びかけたことを追加で説明。「台湾人民は日本に非常に友好的だが、われわれは正義を重視する民族でもある」と強調した。

政治利用の影

 馬氏は李登輝政権下の1993~96年に法務部長(法相)を務めたときから慰安婦問題に関心があったといい、総統任期中には総統府に元慰安婦を招くなどしている。

 式典への出席はその流れにあるとはいえ、最近は頻繁に11月の地方選の候補者応援に出かけてメディアに露出しており、20年の総統選に再び出馬するのでは、との見方もある。14日は元慰安婦を支援してきた団体も台北で抗議集会を開いたが、馬氏は国民党台南市支部が主導した像の除幕式の方を選んだ形だ。

 一連の国民党の動きに対し、駐日経済文化代表処の謝長廷代表(駐日大使に相当)は21日、「台日関係を破壊するものだ」とフェイスブックで批判。18日付の自由時報には「国民党はまだ抗日戦争を戦っているのか」と揶揄(やゆ)する寄稿文も掲載された。

 ただ、慰安婦問題は民進党も過去に日本への謝罪を求めた経緯がある。台湾の立法院(国会)では2008年11月、「姓奴隷の歴史の責任を受け入れよ」などと日本政府に謝罪を求める超党派の決議を採択。民進党側の提案者の一人は当時、立法委員団の幹事長だった頼清徳行政院長(首相)だ。

 日本側は「慰安婦問題と像の設置は別の話だ」(関係者)として、窓口機関、日本台湾交流協会台北事務所の沼田幹男代表が、馬氏と国民党の呉敦義主席に直接、日本政府の立場を説明しに行く異例の対応を取った。国民党と馬氏の事務所は、この会談内容も一方的に発表。発表文は、呉氏や馬氏が逆に日本側に「歴史の教訓を学ぶべきだ」(呉氏)と申し入れをしたかのような形になっており、ここでも政治利用の匂いを感じさせた。(台北 田中靖人)