【アメリカを読む】「地方紙の絶滅早まる」紙への高関税に悲鳴 トランプ氏と米メディア、貿易政策でも対立 - 産経ニュース

【アメリカを読む】「地方紙の絶滅早まる」紙への高関税に悲鳴 トランプ氏と米メディア、貿易政策でも対立

米ウィスコンシン州の印刷工場で、刷り上がった新聞を積み上げる従業員ら。紙の価格上昇で、米国の地方紙は悲鳴を上げている=4月(AP)
 トランプ政権による保護貿易主義的な動きで、米国の新聞業界が悲鳴を上げている。今年に入り、新聞や出版物に使われるカナダ産の紙に対し、高関税を課す措置が実施されたためだ。米国にある新聞社の7割近くがカナダ産の紙に頼っているとされ、高関税措置によりコスト増につながっているという。特に厳しい経営を迫られている地方紙には死活問題で、トランプ政権に猛反発。メディアとトランプ氏の対立は、貿易政策でも深まっている。
 「関税は、米国の新聞社にとてつもないダメージを与えている。新聞を提供する地域社会にも害を及ぼすことになる」
 米南部フロリダ州最大の新聞社、タンパベイ・タイムズのポール・タッシュ最高経営責任者(CEO)は7月、政府機関の米国際貿易委員会に出席し、新聞社の窮状をこう訴えた。
 タッシュ氏によると、カナダ産の紙への関税措置で、年間350万ドル(約3億8000万円)のコスト増が見込まれるという。規模の縮小を余儀なくされ、4月にベテラン記者や編集者など50人を解雇し、月曜から金曜の5日間発行していた無料のタブロイド紙を週1度に変更した。
 「多くの記者がいる首都ワシントンでは、問題ではないのかもしれない。だが、米国内の多くの都市や町は地方紙が報じないかぎり、ニュースが決して表沙汰にならない可能性がでてくる」とタッシュ氏は語気を強め、関税の見直しを訴えた。
 ここ数年来、インターネットの普及などで広告収入が激減したため、もともと資金力の弱かった米地方紙の経営は悪化。今回、人件費の次にコストがかかるとされる新聞印刷用紙の高騰に見舞われ、「ダブルパンチ」の打撃となっているのだ。米紙の報道ぶりも、関税措置により、「地方紙の絶滅が早まる」(ニューヨーク・タイムズ紙)、「米新聞社が死に近づいていく」(ワシントン・ポスト紙)と悲壮感が漂う。
 関税措置は、西部ワシントン州にある米製紙会社、ノース・パシフィック・ペーパーが発端。同社は昨年夏、カナダの製紙会社がカナダ政府から補助金を受け、米国市場で不当に優位に立っていると問題提起した。
 これを受け、米商務省は今年1月、カナダ産の紙に対して関税を暫定的に導入することを決定。また3月には一部で不当に安い価格で販売するダンピングがあったとし、最大で32%の制裁関税を課した。ダンピングなど不法行為を調査する米国際貿易委員会が9月中に最終的な関税措置の取り扱いを決定するが、先行きは見通せない。
 約2000の米新聞社などが所属する「ニュースメディア連合」が7月に発表した272社の調査によると、昨年夏以降、新聞印刷用紙のコストは平均して20・7%増加。関税措置を受けた経営状況は厳しく、45・9%が「すでに従業員を削減した。または削減を予定している」、71%が「ページ数を減らした」とそれぞれ回答した。
 余波は従業員のリストラなどだけに収まらない。中西部オハイオ州にある地方紙ジャクソン・カントリー・タイムズ・ジャーナルは今夏、「関税と発行部数の低下」を理由に閉鎖した。
 恒常的な関税措置には米新聞業界だけでなく、超党派の複数の議員も反対。影響の検証が終わるまでは、発動しないよう求める内容の法案を上下院にそれぞれ提案した。
 トランプ氏とメディアは、トランプ氏が自身に批判的な報道を「フェイク(偽)ニュース」だと主張していることでも対立が深まっている。
 トランプ氏が一部メディアを「国民の敵」と断じたことを受け、8月16日には350を超える新聞社が報道の自由を訴える社説を一斉に掲載。タンパベイ・タイムズなど多くの地方紙も参加し、抗議の意を示した。
 トランプ氏はこれまでカナダ産の紙の関税措置について言及していないが、メディア側は貿易問題もあいまって反トランプの旗幟(きし)がますます鮮明になっている。(ニューヨーク 上塚真由)