【iRONNA発】東京医大不正入試 現役女医が見た「男社会」の現実 山本佳奈氏 - 産経ニュース

【iRONNA発】東京医大不正入試 現役女医が見た「男社会」の現実 山本佳奈氏

入試で女子の一律減点などが明らかになった東京医科大=東京都新宿区
山本佳奈氏
 東京医科大が女子や3浪以上の受験者の得点を一律減点し、合格者数を抑制していたことが明らかになった。不正入試の背景には、女性医師の高い離職率などがあったようだが、それを「必要悪」と短絡的に受け止めてもいいのか。議論の核心を読む。(iRONNA)
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 一般に、女性の労働力は、結婚や出産期に当たる年代にいったん減少し、育児が落ち着いた頃に再び上昇すると言われる。これを「M字カーブ」というが、女性医師も例外ではない。
 平成18年度厚生労働科学研究「日本の医師需給の実証的調査研究」によると、女性医師の就業率は、医学部卒業後減少傾向を認め、卒後11年目(36歳)で76%まで落ち込んだ後、再び回復している。結婚や出産を機に医師をやめる選択をする女性医師がいることも事実だが、ベビーシッターを雇いながら勤務を続ける医師もいれば、出産後すぐに復帰して第一線で働く医師もいる。
 さらに、多くの女性医師は職場や働き方を変えながら、医師を続けている。東京医大の経営者にしてみれば「退職」に等しいが、当事者の女性医師からみれば「転職」だ。要するに、東京医大は自分のところで働いてくれる医師にしか関心がなかったのだろう。
 実態は「就職試験」
 実は、この点こそが今回の問題の本質である。医学部入試は、単なる大学入試ではない。大学医局への就職試験という側面もある。大学経営者にとっては、卒業後医師として自らが経営する大学病院や系列病院で働いてくれる人を選ぶ「採用試験」でもある。
 つまり、医学部とは教育機関であるにもかかわらず、合否の基準に卒後の働き方が入っていることを誰もおかしいと感じていないのである。このことが、問題の根深さを象徴している。
 だが、これは入試に限った話ではない。医局の勧誘や専門医制度も、医師や医局員不足への対策として「囲い込み」を続けている。
 研修医2年目の秋ごろだったと思う。母校の産婦人科教授がはるばる私と会うために、当時勤めていた福島県南相馬市までやってきた。その後、「母校に帰ってきなさい」「専門医を取得しないと将来の可能性を狭める」などと何通もメールが届き、それほどまでに医局員が欲しいのかと驚いたのを覚えている。
 若手に「専門医」という肩書をチラつかせ、医局員として働かせるのが専門医制度の実態である。医学部教授の立場にしてみれば、これほど有り難い制度はないだろう。働き盛りの若手医師を囲い込み、後期研修を終えれば、「雇い止め」することができるからだ。そして、新たな若手を「教育」という名の下で縛り付ける。普通の職業なら、こんな有期雇用が認められるはずがない。
 裏口入学もしかりである。世間で言う「コネ入社」と同じだが、医師になるための切符をくれた大学には一生頭が上がらない。医局員として一生働き続ける。大学病院の経営者にしてみれば、裏口入学を認めた代わりに、ずっと働いてくれる医局員を確保できる。お安い御用なのだろう。
 「肩書なんかいらない」
 私が医師を目指したのは、大学教授のような「肩書」が欲しいからではない。患者に寄り添っていく中で、医療と医学の両方を学びたかったからだ。私は、大学医局には属さず、新専門医制度にも登録しなかった。福島県と東京都で臨床医として働きながら、臨床研究にも取り組んでいる。
 女子受験生を一律減点し、恣意(しい)的に合格者数を抑制していたことは、どう考えても女子差別である。だが、根底に隠れている問題は、医学教育という名の下、大学側が入試や専門医の名をかたった医師の囲い込みや就職活動が行われている実態である。それは典型的な「男社会」だ。私はそのような人生を送りたくない。おそらく同様に感じている女性医師も多いだろう。
 この問題をただの「女性差別」という問題だけで終わらせることなく、その裏に隠された医学教育という名の下の慣習にまでメスを入れる機会と捉えるべきだ。
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 【プロフィル】山本佳奈(やまもと・かな)
 医師。平成元年、滋賀県生まれ。滋賀医科大卒。福島県の南相馬市立総合病院を経て、ときわ会常磐病院(いわき市)、ナビタスクリニック(東京都)で内科医として勤務。NPO法人医療ガバナンス研究所研究員も務める。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)。
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