【志らくに読ませたい らく兵の浮世日記】落語会で子供のハートをつかんだ後輩、吉笑 ハーメルンの笛吹きと呼んでやる! - 産経ニュース

【志らくに読ませたい らく兵の浮世日記】落語会で子供のハートをつかんだ後輩、吉笑 ハーメルンの笛吹きと呼んでやる!

 昨年の初夏。後輩の立川吉笑に仕事をお願いしたんです。「子ども落語会」。
 私の高校時代の同級生に息子さんがいまして、その子が吉笑の大ファンだというんです。ただ未就学児童だし、なかなか落語会に連れて行けないと。そんな話を聞いていたもんですから、どうにかしてその子に吉笑の落語を聴かせてあげたいと、「子ども落語会」なるものを企画したのでした。
 同級生、その友人、子供たち、30人くらいは集まってくれたでしょうか。会場は新宿にある郷土料理屋さん。小学生や幼稚園生がメインなので、落語だけで喜んでもらえるかどうか。落語の前にクイズをやってみたり、正解した子にお菓子を配ってみたり、いろいろと工夫しました。そして2人で落語を3席ほど。
 その当時、テレビのワンコーナーでよく「狸」を演じていた吉笑。同級生の息子さんはそれを見て喜んでくれていたそうです。そこで吉笑は「狸の恩返しすぎ」という落語を演じてくれました。息子さんに「狸」を直接見てもらいたい。
 か、感動秘話ですね。書いてて泣けてきた。
 料理屋さんでの会なので、終わればその場で打ち上げ。親御さんはもちろんのこと、子供たちとも触れ合える良い機会です。しかし悲しいかな、私はかなりの人見知りのうえ、子供たちとおしゃべりしたり遊んだりするのは、あまり得意ではない。私は同級生と話をしながらも、なかなか子供たちと打ち解けられずにいました。せっかくの「子ども落語会」なのに。
 しかし、吉笑は私の戸惑いなんかどこ吹く風。子供たちと元気にはしゃいでいる。子供と同じ目線で楽しんでいる。子供の一人がポケットから手品のタネを取り出して、私や吉笑に見せてきます。
 「お兄ちゃん、これどうなってるか、わかるぅ?」
 目の前で手品を披露してくれる。うまいもんです。一生懸命練習したんでしょう。
 私の反応。
 「へえ、すごいねえ」
 吉笑の反応。
 「おおおぉ!! すげえええぇ!!!」
 な、なんという驚きよう。子供たちは吉笑の食いつきの良さに喜びます。みんな吉笑のまわりに集まってくる。私は頼もしかったですよ。子供たちの前で落語を一生懸命演じてくれて、さらに打ち上げまで子供たちを楽しませてくれている。ありがたいなぁ。吉笑に仕事を頼んで、本当に良かったなぁと、しみじみ感謝しました。
 すると、吉笑が私の表情を感じ取ったんでしょう。お互い落語家修行をしてきた身。ともに厳しい前座時代を乗り越えて、今や二ツ目の身分。お互いの心を確かめるのに、言葉はいらない。
 彼の目を見つめながら、私は感謝を込めて軽くうなずきました。今日という日のうれしさに、一瞬、目が潤んでしまったかもしれない。吉笑もその様子を見て、感極まったんでしょう。
 おもむろに、自分のまわりに集まっていた子供たち5、6人の肩をガッと抱きよせ、私に熱い言葉を浴びせました。
 「どうです、アニさん! この人間性の違い!!」
 ちきしょう。トドメを刺しに来やがった。
 私が吉笑の新作落語で一番好きなのは「独り相撲」。ご商家の若い者や番頭が相撲興行を見物してきて、それぞれ見てきた様子を報告する。しかし話を伝える技術が伴わず、さらにはピントはずれの報告をしだして一騒動になる、という落語。
 芥川龍之介の「藪の中」を喜劇にした感じ。新作だけど、どこか古典っぽい。舞台も江戸や明治の日本。吉笑が言うところの「擬古典」というジャンルなのでしょう。
 私がこの落語を聴いてて楽しいのは、吉笑の細かなテクニックを感じるから。シンプルな構成の中に、場面ごとのカット割とか、声の緩急とか、演じ分けのリズムとか、あらゆるテクニックを駆使して噺を盛り上げる。そして生まれてくる笑い。吉笑落語の発想豊かな面白さは、きめ細やかな落語の技術で裏打ちされている。
 そうか。してみると彼が子供たちの心をわしづかみにしたのも、何かしらのきめ細やかな魔術的テクニックを駆使したに違いない。おのれ、吉笑。今度からハーメルンの笛吹きと呼んでやる!!
 らく兵の落語会 東京・渋谷の宮益坂十間スタジオ Aスタジオで「らく兵の落語おろし」という、すべて師匠・立川志らくがらく兵のために自身の十八番をチョイスしたネタと他一席の勉強会を行っている。次回は9月6日(木)午後7時開演。問い合わせは、立川企画(電)03・6452・5901。
 らく兵 宮崎県出身。平成18年6月、立川志らくに入門。24年4月、二ツ目昇進。