「葛飾北斎ブーム逆輸入」 長寿壮健にも注目 没後170年の「グレートウエーブ」

近ごろ都に流行るもの
「神奈川沖浪裏」を刷るワークショップ。北斎の浮世絵に興味津々の小学生(重松明子撮影)=東京都墨田区のすみだ北斎美術館

 19世紀後半の欧州を魅了した「ジャポニスム」の代表的絵師、葛飾北斎(1760~1849)の人気が故郷・日本で世紀を超えて渦巻いている。世界が「グレートウエーブ」と称賛する富嶽三十六景「神奈川沖浪裏(なみうら)」のアレンジ商品が続々誕生。80代になっても傑作を描き続けた健康長寿など、「人生百年時代」の先駆者として人物像にも興味が注がれている。9月はイベントもめじろ押しだ。(重松明子)

人気の「神奈川沖浪裏」を…

 トートバッグにスケートボード、扇子…。東京都中央区の銀座蔦屋書店では、「神奈川沖浪裏」のアレンジ商品が並ぶネオ北斎フェアを年末まで開催中だ。お茶漬け海苔(のり)などの購入で応募できる、北斎絵皿キャンペーンを8月31日まで展開中の永谷園では「当選者が絵皿の写真をSNSで発信するなど、大変好評です」

 北斎が70歳ごろに創作を始めたとされる「神奈川沖浪裏」は当時8千枚も刷られたともいわれ、現存数は不明ながら各地に所有者がいる。

 そのひとつ。2年前に北斎の生誕地、東京都墨田区に開館した「すみだ北斎美術館」は区が所蔵する作品の画像管理・貸し出しを行っている。一番人気の「神奈川沖浪裏」は画質の良さが自慢だ。「版画は刷りを重ねると板木が摩耗してしまうが、所蔵作品は比較的刷りが早く線がシャープ。雲の表現も美しく色が残っています」と学芸員。

 退色劣化を防ぐため原本展示は制限しているが、優れた画質を複製したオリジナル商品が多数開発されている。ミュージアムショップではオリジナル以外も含めて計約1千種類の北斎グッズを販売し、羊羹(ようかん)などの菓子類や文具が人気という。

 取材日は、伝統木版技法を継承・復刻するアダチ版画研究所の職人による、「神奈川沖浪裏」を刷るワークショップが開かれていた。定員15組の親子枠がすぐに満席。刷り上がった和紙を手に「激しい、カッコイイ」と小6男子。小4女子は「波の一番高い所の模様が面白くて好き。勉強机に飾る」と目を輝かせた。

 平日約500人、休日約800人が来館。フランスを筆頭に3割が外国人の日もある。ブームの発端は2014年にパリで開かれた史上最大規模の「北斎展」。それが世界潮流に発展しているが、日本でも逆輸入的に人気の裾野が広がっている。

 2人組の若手女芸人、葛飾ふとめ・ぎょろめさんは同館の「ほぼ公認・学芸人」として活動中。「日暮里の繊維街で探した」という神奈川沖浪裏プリントの生地を仕立てた衣装が目印だ。「生涯に30回も画号を変えて、90回も引っ越しをした北斎の面白話を、漫才や歌や踊りでたくさんの方に伝えたい」と燃えている。

日本の4大観光コンテンツに…

 「北斎こそ『人生百年時代のロールモデル』。現代人が学ぶべきヒントが詰まっている」と語るのは、7月に「知られざる北斎」(幻冬舎)を上梓(じょうし)したノンフィクション作家の神山典士(こうやま・のりお)さんだ。

 北斎は80代で約250キロ離れた江戸~小布施(長野県)間を徒歩で4度往復。小布施には、「神奈川沖浪裏」からさらに進化を遂げた怒涛(どとう)図「男浪(おなみ)」「女浪(めなみ)」、21畳分の巨大天井画など、晩年の傑作肉筆画が多数残されている。

 足かけ3年、北斎の足跡や欧州を取材した神山さん。「北斎はアートの最高峰。富士山(自然)・京都(歴史)・東京(エンターテインメント)と並ぶ、日本の4大観光コンテンツになりえる」と確信している。今年6月には、日本から世界に発信する「北斎サミットジャパン委員会」が設立。委員長に就任した。

 9月には、来年の没後170年を盛り上げる「北斎巡礼」がスタート。

 4日午後4時から墨田区内でスタートパーティーを行い、金原亭世之介師匠の新作落語「北斎」お披露目や、老年内科医師の北斎に学ぶ健康講座が開かれる。

 5日は朝から墓参りや都内の北斎ゆかりの地巡り。その後12日間をかけて、北斎が歩いた道のりを小布施まで有志で歩き、途中の埼玉県熊谷市で8日、群馬県安中市磯部温泉で10日、それぞれイベントを開く。

 神山さんは「実際に歩いて北斎の驚異的な健脚ぶりを体感してほしい。北斎の暮らしや思想に宿る、長寿壮健の極意にも迫りたい」

 富士に逆巻く偉大な波が、ピンピンコロリの護符に見えてきた!?