IR実施法の先に見え隠れするパチンコ規制 ギャンブル依存症の「本丸」に切り込めるか

政界徒然草

 先の通常国会でのカジノを含む統合リゾート施設(IR)実施法成立をきっかけに、日本のギャンブル依存症対策が本格化しそうだ。依存症を疑われる人は約320万人といわれる中、国会では「ギャンブル等依存症対策基本法」も成立した。カジノ解禁とセットになった法律だが、政府・与党幹部からは既存ギャンブルへの依存を規制したいとの思いも見え隠れする。

 「IRを日本に導入すれば、パチンコなどの既存ギャンブルが依存症の原因になっていることがよく分かるはずだ。今まで野放図だった既存ギャンブルにメスを入れる良い機会になる」

 公明党関係者はIR実施法に賛成し、ギャンブル依存症対策の基本法を成立させた意義をこう語った。政府は成長戦略の柱に観光を掲げており、外国人観光客の積極的な誘致を進めてきた。IRは観光や地方経済への貢献が大きいとされ、観光客1人当たりの消費額を伸ばす有効な手段として期待されている。

 IRの経済効果に理解を示す公明党の国会議員もいたが、支持母体の創価学会にギャンブルへのアレルギーが強く、多くの議員は慎重な立場だった。実際、IR実現のための基本法として議員立法で平成28年に成立したIR推進法の採決は自主投票となり、衆院で井上義久幹事長(71)、参院で山口那津男代表(66)がそれぞれ反対票を投じた。

 IR実施法案提出前の与党協議では、悪影響を最小限にするため日本人のカジノ入場回数を週3回、月10回までとし、入場料6千円を徴収するなどの「世界最高水準のカジノ規制」を強く主張し、譲らなかった。

 実施法案の担当が公明党の石井啓一国土交通相(60)だったこともあり、公明党は賛成に回った。山口氏は「国会が(推進法で)政府に実施法を作れと命じた。国会の意思に従い成立を図るのが政府・与党の責任だ」と説明していた。

 別の公明党関係者は「連立を組む政党の代表と幹事長が反対する法案をそもそも提出するなと言いたい。IR実施法を成立させる代わりの実は必ず取る」と語っていた。「実」とは、IR実施法案の審議入りの条件とした依存症対策基本法の成立だった。

 日本にはパチンコのほか、競馬、競輪、競艇などの公営ギャンブルが身近に存在し、国立病院機構久里浜医療センターの昨年の調査によると、依存症が疑われる人は320万人超と推計されている。生涯で依存症になった疑いのある人は3・6%(男性6・7%、女性0・6%)だった。同センターによれば、調査時期は異なるが、諸外国はオランダ1・9%、フランス1・2%などで、日本の依存症の割合の高さが目立つ。

 また、オーストラリアのカジノ業界団体の調査によると、据え置き型ギャンブル機の設置台数は日本のパチンコ・パチスロが457万台で、2位の米国に約5倍の差をつけてトップだった。

 こうした統計を見ると、日本は名実ともに「ギャンブル大国」と言って差し使えないだろう。だが、これまで出入りがほぼ自由な既存ギャンブルを放置し、加えて政府も都道府県も事業者も依存症対策を放置してきたのが実体だったのだ。

 観光政策としてIR導入を推進してきた菅義偉官房長官(69)は7月23日、BSフジ番組で「今まで日本はパチンコ、競馬、競輪、こうしたギャンブル依存症対策を全く何もしていなかった。IR実施法を機に依存症対策(基本法)を作った」と語り、依存症対策基本法の重要性を強調した。

 依存症対策基本法は、依存症を「本人や家族の日常生活に支障を生じさせ、多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪など重大な社会問題を生じさせている」と定義。依存症患者の治療体制の整備、社会復帰に向けた支援を進める基本計画の策定を政府に義務付けた。

 また、ギャンブル依存症対策推進本部を設置し、依存症経験者や家族、事業者、有識者らでつくる関係者会議を設け、基本計画の策定時に意見を聞くことも盛り込んだ。競馬やパチンコなどの事業者に国が実施する対策への協力を努力義務として課した。

 日本は高度成長期に経済成長を優先させ、環境に配慮しなかったため、各地で公害問題を引き起こした。日本の製造業は公害問題に対する世論の反発を受け、環境対策に積極的に投資してきた。その結果、環境関連技術は日本の製造業の競争力の源泉となった。

 ギャンブル業界と製造業を同列に扱えないが、少なくとも現在、依存症の原因となっているパチンコなどの既存ギャンブルの運営事業者は社会的責任として依存症対策に関わる相応の費用を負担すべきだろう。だが、IRの運営事業者には関連収入の30%の納付義務が課される一方、基本法では依存症対策に関する事業者の費用負担にまでは触れなかった。

 菅氏はBSフジ番組で、パチンコの市場規模は約23兆円と指摘した上で「あまりギャンブル性のない形にする」とも語った。この発言に関し、公明党幹部は「われわれもパチンコなどの既存ギャンブルに対する規制の必要性は常に頭の中にある」と述べ、歩調を合わせた。菅氏と公明党のパイプは太いことで知られている。

 ギャンブルには依存症という負の側面が必ずついて回る。政府・与党幹部の発言の裏には依存症対策の実効性がなければ、もう一段強い規制に踏み切るとの強い意思が透けてみえる。 (政治部 千田恒弥)