「不良老人になろう」 阿川佐和子さん介護本共著者に聞いた極意 - 産経ニュース

「不良老人になろう」 阿川佐和子さん介護本共著者に聞いた極意

「看る力 アガワ流介護入門」の共著者、よみうりランド慶友病院の大塚宣夫会長(寺河内美奈撮影)
「看る力 アガワ流介護入門」の共著者、よみうりランド慶友病院の大塚宣夫院長(寺河内美奈撮影)
阿川佐和子さん、大塚宣夫さん共著「看る力」の表紙
 作家、阿川佐和子さんと高齢者医療の第一人者、大塚宣夫(のぶお)医師の共著「看る力 アガワ流介護入門」(文春新書)が発売から2カ月足らずで発行部数8万5千部と好調だ。従来の介護本に漂う重苦しさがなく、「恋は長寿の万能薬」「不良老人になろう」など、よりよい介護と老後のコツを、明るく対談方式で指南する。大塚さんに話を聞いた。
好物は喉を通る
 平成27年に94歳で亡くなった佐和子さんの父で作家の弘之(ひろゆき)さんは、最晩年をよみうりランド慶友病院(東京都稲城市)で過ごした。大塚医師が経営する高齢者向け療養型病院だ。
 本によると弘之さんは、病室に電子レンジや電気鍋を持ち込み、晩酌やすき焼きを楽しんでいたという。
 「私は病院開設当初から、“生活の場”を目指した。人生の最晩年、医療より介護、介護より生活を重視するスタンスです。ですからお好きな物を、お好きなだけ召し上がればいい」
 「この本の最初の項目は『好物は喉(のど)につまらない』。一般に病院食はまずくて、喉を通らない。でも、好きなお寿司や鰻は召し上がれるんですよ」
駅伝方式の介護
 この本で伝授される、介護のコツは30項目。今も認知症の母のケアを続け、介護経験豊富な佐和子さんの体験談や疑問を、大塚医師が専門家として受け止める形で対談は進む。
 「介護は長期戦と心得よ」「イライラしたら笑っちゃおう」「施設に預けるのは親不孝ではない」などの金言が並ぶ。
 推奨されるのは、頑張り過ぎず、多くの他人や専門家の手を借りる“駅伝方式”の介護だ。
 「佐和子さんは、お母様には“仕事”と言って、ゴルフで気分転換をしたエピソードが本に載っていますね。それでいいんです」
 「真面目な人ほど親の介護に専念し、共倒れになるケースは多い。介護は、自分を犠牲にしてやるほどの仕事ではないんです。全てを犠牲にして介護をする人は、長持ちしません。頑張り過ぎず、任せるところはプロに任せるべき」
“不良長寿”のすすめ
 この本には、「恋は長寿の万能薬」など、型破りな項目も並ぶ。実際、同病院では美人看護師長を慕うあまり、異動した彼女を追いかけて転院し、10年長生きした男性のエピソードを紹介。恋の効能も説く。
 「生きるってそういうことです。ほかにもその看護師長のファンは4人いましたが、彼女の異動後、残された全員が3カ月もしないうち亡くなってしまいました。会いたい人がいる、そこに行けば楽しい、となれば生きる原動力になる。自分のしたいことをする不良老人が一番。“不良長寿”をお勧めします」
一人で死ぬ
 よりよい老後のため、自分で自分を看る、独立自尊の精神が大切とも説く。
 「自立の意識が高い人は、若さを保っていると実感します。他人に頼って生きるのが、一番元気をなくす。なぜなら必ず当てが外れ、裏切られるから。その度にガッカリして、だんだん引きこもりになっていく。誰かに何かしてもらおうという気持ちが、人生を駄目にする」
 「最後の最後まで1人で生き抜く、最後は1人で死ぬんだという気概を持つ人は、元気さが違う。老後こそ、独立自尊です」
男は気概
 「男って不思議なもので、自分の価値を収入と置き換えるところがある。だから、立派なご活躍をされた方でも、年金暮らしになった途端、しょぼくれる。それならどんな仕事でもいいから、人の役に立つような、できれば収入のある生き方をしなければ駄目です」
 「悠々自適なんてせいぜい半年。女の人にモテる努力もしなれば、奥さんからも邪魔者扱いです。『自分で自分を看る力』を目指す。そして自分の力だけではどうにもならなくなったら転がり込む施設を決めておいて、『入ってたまるか』と踏ん張る気概が一番大事です」
「自分が入りたい」病院
 大塚医師が高齢者医療に取り組む原点は昭和49年、初めて見学した老人病院の惨状だ。畳敷きの部屋に多数のお年寄りが転がされ、悪臭漂う“現代の姥捨山”のような光景にショックを受けた。
 精神科医だったが、「自分の親を看取れる病院」を目指し、一念発起。55年、青梅慶友病院(東京都青梅市)を開業した。医療・介護スタッフを基準以上に手厚く配置し、充実した環境や食事を提供する病院として、知る人ぞ知る存在となった。
 「自分の親を安心して入れられる環境、仕組みを作ろうという思いが原点にあります」
 「でも、高齢者医療を30年以上やってきて、自分の親にしてもらいたい介護と、自分がしてもらいたい介護は違うと今は考えています。例えば親には規則正しい生活を送り、身ぎれいにしてほしい。ところが自分が75歳を過ぎると、毎日の風呂も嫌だし、リハビリもほどほどにしてほしい。ですから今は、『自分がしてもらいたいことは何か』を追求しています」
 「介護を一生懸命やっている人ほど疲れ果てて、余裕がない。われわれの病院に預けて頂き、ご家族の表情が明るくなる。これほどの快感はないです」(文化部 飯塚友子)
 大塚宣夫(おおつか・のぶお) 昭和17年、岐阜県生まれ。慶応大医学部卒。仏政府給費留学生として2年間、渡仏。55年、青梅慶友病院を開設し、院長に。平成17年、よみうりランド慶友病院を開設。「老人の専門医療を考える会」会長。著書に「老後・昨日、今日、明日-家族とお年寄りのための老人病院案内」(主婦の友社)や、「人生の最期は自分で決める 60代から考える最期のかたち」(ダイヤモンド社)など。