【中東ウオッチ】石油大国の大改革 サウジ皇太子、最大の敵は「国民のぬるま湯体質」 - 産経ニュース

【中東ウオッチ】石油大国の大改革 サウジ皇太子、最大の敵は「国民のぬるま湯体質」

首都リヤドの運転教習所では、黒づくめの衣装「アバヤ」を来た女性たちが女性教官の話に耳を傾けていた(佐藤貴生撮影)
紅海に面したウオーターフロント。猛暑が和らぐ夕方になると家族連れなどが続々と姿をみせた=ジッダ市街(佐藤貴生撮影)
レクサスに乗るダリアさん=ジッダ市街(佐藤貴生撮影)
ショッピングモールの日産の展示場。若い女性たちが来客に対応していた=ジッダ市街(佐藤貴生撮影)
首都リヤドの中心街。オイルマネーのすさまじさを物語る街並みだ(佐藤貴生撮影)
 石油大国のサウジアラビアで大改革が進行している。6月下旬には世界で唯一、禁じられてきた女性の車の運転が解禁され、海外メディアの注目を浴びた。しかし、これはサウジ人の就職を促し、社会・経済構造を変える壮大な試みの一端でしかない。次期国王と目されるムハンマド・ビン・サルマン皇太子(32)が主導する改革は国の盛衰を左右する重要な意義があり、大量の石油を買い付けている日本にとっても人ごとではなさそうだ。(リヤド 佐藤貴生)
働く女性を増やせ
 サウジ西部ジッダ。うだるような暑さの7月上旬の夕、紅海に面したウオータフロントの大通りで会った主婦のダリアさん(40)は、トヨタ・レクサスのハンドルを握りながら、「サウジの男性は交通ルールを守らないから危ない」と話した。
 ダリアさんは米国の運転免許証を持っており、サウジの免許に切り替えたばかりだ。サウジでは、海外暮らしの経験があり運転してきた女性も少なくない。
 サウジ資本の汎アラブ紙によると、国内には仕事を持たない主婦が150万人以上いる。また、30歳を過ぎても結婚していなかったり、離婚したりする女性も増えているとされる。これらの女性に1人で移動できる手段を認め、就職を促すのが運転解禁の狙いだ。
背景には原油価格の下落による財政難がある。2014年暮れから急落した原油価格は15年1月、約6年ぶりに1バレル=50ドルの大台を割り込み、国の財政の大半を占める原油売却収入が落ち込んだ。政府が社会・経済改革「ビジョン2030」を発表したのは翌16年春のことだ。
サウダイゼーション
 サウジの人口約3300万人のうち、約1000万人は外国人が占める。他の湾岸諸国に比べれば外国人の比率は低い方だが、サウジ人の就労層を増やす「サウダイゼーション」(サウジ人化)は長年の課題となってきた。外国人が多ければ海外に流出するカネも増え、国内の経済活性化に結びつかないからだ。
 在サウジの西側の経済ウオッチャーは、「ムハンマド皇太子はサウダイゼーションに本気で取り組んでいる初めての指導者ではないか」と評する。人口増加率が年2%を超える中で若年層の失業率は20%以上に達しており、オイルマネーが目減りすれば、これまでのように国民を養っていけなくなるという危機感があるのだ。
 サウダイゼーションに関連する政府の改革は外国人労働者にも及ぶ。昨年には仕事がある家長らに限られていた外国人登録料の支払いを家族の人数分に拡大し、今後も増額する方針を打ち出した。これにより、「昨年だけで100万人以上がサウジを後にした」(西側外交筋)といわれ、今年は女性の運転解禁で外国人の雇われドライバーの失職も増えている。いうなれば、外国人を出国させてその職にサウジ人にあてがう「ショック療法」だ。
若者は変わるか
 サウダイゼーションの成功に向けては、いくつかの難題がある。なかでも注目されるのが、サウジ人の労働意欲が向上するかどうかだ。
 ジッダの住民によると、政府系の病院ならがんや難病の治療も含めてすべて無料だし、医療レベルも高い。所得税はなく、国立大に進めば補助も出る。
 小さい時からこうしたオイルマネーの恩恵に浸ってきた若い世代が、外国人に比肩するほどの技術を身につけ、「納期に間に合わせる」「ときには休日出勤や残業もやむを得ない」といった考えを持てるのだろうか。詳細には触れないが、現地ではほとんど仕事らしい仕事をしない公務員にも会い、驚かされたこともあった。
 政府は企業に対してサウジ人の雇用比率を定め、基準に満たない企業の外国人雇用を制限する「ニタカット」と呼ばれる政策を進めている。しかし、ある外国人は「働く意欲がない者については出社しなくてもいいから、雇ったことにして給料を支払っていたケースもあったようだ」と漏らした。ショッピングモールなどでは女性店員の姿が多く目についたが、企業は一般に男性より女性を雇う方を好む傾向があるという。
即位にらみ大なた?
 サウジは2015年から隣国イエメンの内戦に介入し、巨額の出費を強いられているといわれる。また、昨年11月には王室内の有力者や国内の大富豪らを横領などの疑いで一斉拘束し、多額のカネを国庫に返納させた。いずれもムハンマド皇太子の意向で行われた政策だといわれる。
 毀誉褒貶が絶えない皇太子だが、サウジ在住の外国人の多くは社会・経済の大改革には理解を示した。実父であるサルマン国王は80歳を過ぎており、皇太子が近く国王に就任するとすれば、その在位期間は長期に及ぶとの見方が強い。自らの“治世”をにらんで大なたを振るっているという見方もできる。
 皮肉なことに、その最大の敵はオイルマネーという「ぬるま湯」にどっぷり漬かってきたサウジの若者たちなのかもしれない。若者たちの多くが改革を支持しているといわれるが、身を切るような痛みを克服できなければ、反感となって政府にのしかかる恐れもあるようにみえる。