農林水産物・食品の「輸出1兆円」が射程圏 東京五輪は日本の食材・和食をPRする絶好のチャンス

経済インサイド
「“日本の食品”輸出EXPO(エキスポ)」に設けられた海外向け日本酒通販サイト「SAKE NETWORK」のブースでは、地酒が振る舞われた=平成29年10月、千葉市の幕張メッセ

 平成31年に農林水産物・食品の輸出額1兆円という政府目標の達成が視野に入ってきた。今年1~6月の実績は前年同期比15.2%増の4359億円。この勢いが続けば、政府は重要な成長戦略の一つを軽くクリアできそうだが、旗振り役の農林水産省にアクセルを踏む力を弱める気は全くなさそうだ。

 農水省がこのところ猛烈に意識しているのは、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて増加が見込まれる訪日外国人の存在だ。

 「この人たちは自分のお金でわざわざ日本に“試食”をしに来てくれている。東京五輪に向けてさらに増えていく。今ここで日本の農林水産物を売り込まなくて、いつやるんですか!」

 斎藤健農水相は輸出戦略を急ぐ必要性についてこう力説する。政府が海外で日本の食を売り込むイベントを開催するとしたら、どんなに多額の税金を投じて宣伝したとしても、接触できる現地の外国人の数には限りがある。

 昨年、日本を訪れた外国人の数は2690万人。政府は東京五輪が開かれる平成32年に4000万人に増やそうとしている。

 これだけの人が日本滞在中に新鮮な食材が使われたさまざまな料理を味わえば、一気に和食ファンを増やせる可能性がある。帰国後も日本から食材を調達している和食レストランに通ったり、スーパーなどで日本の食材を買い求めて自ら和食作りに挑戦したりする人も出てくるかもしれない。

 少子高齢化で日本の「胃袋」が縮み続ける中、日本の生産者や食品メーカーにとって、拡大が続く海外市場は魅力的だ。海外のニーズに対応した農作物や食品を開発することで、食の産業も成長し続けることができる。食品の鮮度を保ったまま輸送する技術の向上も期待できる。

 海外市場の開拓は、日本の食糧安全保障にとってもプラスになる。29年度のカロリーベースでの食料自給率は38%。前年度から横ばいで、コメ不足で輸入米が出回った10年度の37%に次ぐ低水準だ。37年度までに45%に引き上げる目標を立ててはいるが、上向く気配は感じられない。

 これらの事情から、五輪開催は日本の農林水産物・食品の輸出戦略にとっても絶好のチャンスというわけだ。この機会を生かそうと、農水省の取り組みも重層的になってきた。

 7月には、経済産業省と農林水産物・食品の輸出促進のための合同チームを発足させた。省の垣根を越えた横断組織としてだけでなく、チーム長に農水省初の女性局長を起用したことでも注目された。中小企業の海外展開支援などで実績のある経産省のノウハウを取り入れ、必要とあらば予算獲得にも動くという。

 これまで把握できていなかった1品目当たり20万円以下の少額輸出の推計値の公表も始めた。越境電子商取引(EC)などを使った食の輸出の実態を明らかにし、農家や食品メーカーの生産や営業の戦略に役立ててもらう狙いだ。

 トップセールスにも余念がない。斎藤農水相は8月、日本の農林水産物・食品の輸出先第1位の香港で売り込みをしてきた。さらに農水省は「和食のプロ」も動員し、海外の料理人が日本の老舗料亭で実務研修を受けられる制度を支援。日本の外食産業が海外展開をする際のパートナー候補として養成するという。

 東京五輪の開幕まであと2年を切った。1兆円の目標を突破できれば当然、1.5兆円、2兆円とその先を目指すことになるだろう。食の輸出拡大に向けて、農水省の取り組みはさらにパワーアップしそうだ。(経済本部 米沢文)