増える「メンタル病む」社員 必要な適材適所 磯山友幸氏

高論卓説
日曜日でも遅くまで働く人々。メンタルに問題を抱える社員が増えている=東京都内(早坂洋祐撮影)

 職場で精神を病む社員が急増している。人手不足による「過重な労働」がストレスとなり心をむしばむケースが増えているのだ。会社で働いている人ならば、職場の周囲にメンタルに問題を抱えて出社できない人がいるはずだ。大手企業の人事担当者の肌感覚では全社員の5%前後が出社に障害があり、軽い躁鬱などを含めると10%近い社員がメンタルに問題を抱えているという。

 精神を病む人の増加は厚生労働省の調査にも表れている。平成29年度に「精神障害等」で労災を申請した人の数は1732件と前年度に比べて146件、率にして9.2%も増加した。そのうち、未遂を含む自殺による請求は前年度比23件増の221件と、1割以上も増えた。いわゆる「過労自殺」が増加しているのである。

 申請しても全てが労災と認められるわけではない。「精神障害」での労災認定は前の年度に比べて8件多い506件、未遂を含む自殺は14件増の98件だった。申請件数の増加に比べて認定件数が少ないのは仕事との因果関係を立証することが難しいためだ。

 当初、「過労死」と言えば、脳梗塞や心筋梗塞といった「脳・心臓疾患」によるものが多かった。脳・心臓疾患の場合、労働時間の長短と認定件数は比例する。長時間労働によって脳・心臓疾患に陥ったと推定することができるからだ。

 ところが、精神障害は必ずしも労働時間に比例しない。もちろん、長時間労働も一因になりうるが、それだけが原因とはいえないのだ。労働時間が短くてもストレスを強く感じて追い詰められることは会社の中でしばしば起きる。

 安倍晋三内閣は「働き方改革」を掲げて長時間労働の是正に取り組んでいる。残業時間の上限を「月100時間未満」に制限し、違反した企業に罰則を科すというのは、日本の職場を変える画期的な一歩に違いない。だが、前述の通り、いくら残業時間を削っても、精神を病んで過労自殺する社員の抜本的な削減にはつながるかどうか。

 産業医や人事コンサルタントの分析によると、仕事が高度化・複雑化していることで、自分の能力が追い付かないと感じている社員が少なくない、という。そんな「焦り」もストレスになっている。自分が得意でないと感じている分野への突然の転勤が精神障害を発症するきっかけだったりする。

 抜本的にストレスを減らすには、社員にやりたいことをやらせる、能力に見合った仕事をさせる、本当の意味の「適材適所」が必要なのだろう。自分のやりたい仕事ならば多少の残業も苦にならない。

 そうした働き方を可能にするには、「辞令1枚でどこへでも行け」というこれまでの日本型の雇用慣行では難しい。いわゆるメンバーシップ型ではなくジョブ型の雇用へとシフトしていくことが不可欠になるだろう。また、ライフステージに合わせて多様な働き方を選択できることも重要だ。残業も苦にせずに長時間働いていた人でも、子育てのピークや親の介護に直面すれば、それまで通りの働き方を続けることは難しくなる。

 メンタルを病む社員を減らすためには、本当の意味の「働き方改革」が不可欠になる。

 磯山友幸(いそやま・ともゆき) ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め平成23年に独立。56歳。