【経済インサイド】世界最高の「顔認証システム」を東京五輪で採用 NEC復活の起爆剤となるか - 産経ニュース

【経済インサイド】世界最高の「顔認証システム」を東京五輪で採用 NEC復活の起爆剤となるか

2020年東京五輪・パラリンピックでNECが導入する顔認証システム=8月7日、東京都千代田区(宮川浩和撮影)
顔認証システムの採用についてプレゼンテーションするNECの菅沼正明執行役員=8月7日、東京都千代田区(宮川浩和撮影)
2020年東京五輪・パラリンピックでNECが導入する顔認証システム=8月7日、東京都千代田区(宮川浩和撮影)
 2020年東京五輪・パラリンピックの会場セキュリティーに、大会史上初めて「顔認証システム」が導入される。採用されたのはNECの技術。目指すのが効率的なテロ対策であることは言うまでもないが、NECにとっては、世界トップ水準の顔認証技術を「国内外へ広くアピールする絶好のチャンス」(新野隆社長)となる。事業規模が最盛期の約半分まで縮み、相次ぐリストラを迫られてきた同社が再成長へ転じる起爆剤にできるか-。
一石三鳥
 8月7日午前、東京・大手町で開かれた顔認証システム採用の発表会見。説明に立ったNECの菅沼正明執行役員は「大会のゴールドパートナーとして、このチャンスを最大限に生かしたい」と笑顔で語った。
 最高位スポンサーであるゴールドパートナーが支払う協賛金は、物品やサービス提供を含め150億円前後と安くはない。だが、菅沼氏は「顔認証ビジネスの拡大に役立つのはもちろん、NECブランドの再構築や社員のモチベーションアップにもつながるはずだ」と“一石三鳥”のメリットを指摘し、「投資効果は十分」とそろばんを弾く。
 かつて、NTT(旧電電公社)の電話交換機など設備投資を担う“電電ファミリーの長兄”として成長したNECだが、売上高が5兆4000億円を超えた平成13年3月期をピークに、長期低迷を余儀なくされている。
 携帯電話の基地局需要は一巡し、ガラケー(従来型携帯電話)からスマートフォンへのシフトで端末製造から撤退。半導体や個人向けパソコン、インターネット接続と不振事業を次々に手放し、直近の年商は2兆8400億円余り(30年3月期)と最盛期の半分近くに縮んだ。今年も3000人をリストラする。
 こうした、じり貧状態を突破し、新たな稼ぎ頭へ育てようとNECが目指しているのが、顔認証技術などを中心とした「社会ソリューション事業」だ。32年度に売上高3兆円、本業の稼ぐ力を示す営業利益率(売上高に占める営業利益の割合)5%を目標とする中期経営計画の核と位置付け、グローバル展開を急ぐ。
 その裏付けとなる顔認証の技術力は折り紙付きだ。
 米国立標準技術研究所(NIST)が主催し、世界16チームが競うコンテストで1位の評価を過去4回連続で獲得。認証精度(認証率97%以上)、照合速度(0・3秒で160万件)ともにトップに輝き、悪条件(大観衆がひしめく競技場)を想定した運用でもエラー率が最も低かった。
 これまでの導入先は40カ国以上に上る。
 海外では、アルゼンチンの犯罪多発地域で市街監視システムに採用した結果、2008年からの5年間で車両盗難事件が80%減少した。米国や英国の警察へも技術を提供している。
 国内ではデータセンターなど企業の保安システムへの導入が多いが、一般市民が接する場へも着実に広がりつつある。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)の年間会員の入園手続きや、人気アイドル「ももいろクローバーZ」などのコンサートで来場者の本人確認に使われるようになり、話題になった。
市場は倍増
 テロ対策の強化などを背景に、顔認証関連のビジネスは世界的に拡大が見込まれる。調査会社のリサーチステーションによると、17年の市場規模は40億5000万ドル(約4500億円)で、22年には77億6000万ドル(約8640億円)とほぼ倍増する見通し。
 こうした中、NECは顔や虹彩、静脈などの生体認証技術と人工知能(AI)を組み合わせる「セーフティ事業」として、今後3年間に海外で2000億円の販売目標を立てている。
 もっとも、高い技術力をそのままビジネスの成長につなげられるかどうかは未知数だ。
 たとえば、NECの顔認証システムなら人混みの中から指名手配犯などを割り出す運用も可能だが、東京五輪では「選手やボランティア、報道関係者などの本人確認に使う以外、観客の監視などに使う予定はない」(組織委幹部)。
 証券アナリストは「プライバシー意識が高い日本では、不特定多数の人を対象とした顔認証の運用は難しく、そうしたビジネスは海外中心になるだろう」と指摘する。
 もちろん、競合他社も指をくわえてみてはいない。7月にはパナソニックが、成田など国内5空港から顔認証技術を使う入出国審査ゲートを計約130台、約16億円で受注した。
 カメラの前に一人一人立ち止まってもらい、静止画で本人確認する「積極認証」の場合は、雑踏の中を歩き回る複数の人を見分ける「非積極認証」ほど高度な技術は必要としない。
 パナソニックの場合、カメラやモニターも手がけており、システム一式を自前で提供できる点も強みとなる。
 ただ、東京五輪にからめて顔認証技術を用いた「パブリックセーフティ先進製品」をPRできるのは、同分野のゴールドパートナーであるNECだけだ。世界中の注目をビジネスチャンスへつなげるためにも、まずは大会の絶対的な安全確保が求められる。(経済本部 山沢義徳)
 顔認証技術 画像から人の顔を識別する「顔検出技術」と、検出した顔が登録済みデータと一致するかどうかを見分ける「顔照合技術」の組み合わせ。目の離れ具合、口や鼻の位置関係といった「特徴点」を精密に計測し、データベースと瞬時に照合する。
 生体認証には指紋や瞳を使う手法もあるが、顔認証は専用の読み取り装置を必要とせず、エラーが起きた際も警備担当者が目視で確認できる利点がある。
 NECの研究は40年以上の歴史がある。はがきなどの郵便番号を自動で読み取るための画像認識装置の開発から派生した。顔の向きや周囲の明るさが変わっても精度を保てるよう、人工知能(AI)による改良を進めている。