【ニュースの深層】「たばこは薬物」福島・郡山市長 波紋呼んだ発言には伏線があった - 産経ニュース

【ニュースの深層】「たばこは薬物」福島・郡山市長 波紋呼んだ発言には伏線があった

定例会見で記者の質問を聞く福島県郡山市の品川万里市長=7月25日、同市役所(内田優作撮影)
郡山市役所庁舎の入り口に貼られた、「敷地内禁煙」を呼びかける注意書き=3月19日(内田優作撮影)
 「たばこは薬物だ」。福島県郡山市の品川万里(まさと)市長が発したひと言が波紋を呼んでいる。生産農家らの反発を受け市議会で批判や撤回を求められたのをはじめ、JT郡山支店などの関係団体も抗議する事態になった。一方で、激励の電話も市には届く。しかも一連の出来事には伏線もあった。
医師にとっては常識
 発言は6月4日、日本禁煙学会の斎藤道也医師との面談の中で飛び出した。斎藤医師は再来年、市内で開く総会の説明と後援要請のために市を訪れていた。
 斎藤医師がふり返る。
 「たばこは嗜好(しこう)品といわれるが、やめにくく、酒やコーヒーのようなものとは別ものということを話していた」。それを受けて品川市長は語った。
 「たばこは嗜好品ではない。薬物だ」
 まったく同感と斎藤医師は言う。「『たばこは薬物』という理解は医師にとっては常識的。(市長は)そこまで勉強されているのか。さすがだと感じた」
 さらに「市長の発言は喫煙者をおとしめるものではない。そこまで問題視すると逆に、たばこが薬物であることをはっきりさせかねないのでは」と話す。
薬物を売っているのか
 発言が報じられると、関係者は一斉に反発した。
 「何を考えているのかと思った」というのは、郡山たばこ販売協同組合の小林武美事務局長。ほどなく組合所属の市内たばこ店からも、苦情や問い合わせが相次いだという。
 「私たちは薬物を売っているということなのか」
 「国から認められているというのに」。苦情は数十件に上った。
 市議会も同様だった。
 「『たばこは薬物』というのは、いかがなものか」
 「生産者や小売店、喫煙者への侮辱だ」
 議員側は発言の撤回、謝罪を求めたが、品川市長は「医学的な所見として述べた」として拒否した。
 市役所には「市内外を問わず毎日、電話はある」(広報広聴課)というが、ネットニュースで発言を知った県外からの多くが、市長発言を支持する意見で、「応援している」などの声が寄せられているという。
 同組合やJT郡山支店など関係10団体は7月8日、市長に意見書を手渡した。
 意見書は「たばこは合法な商品であり、多くの方々から愛される嗜好品だ」と主張した上で、市長発言について「たばこ業界関係者や愛好者、関係する家族が愕然(がくぜん)としており、大変遺憾。多方面に甚大な影響を与えることから発言の撤回と謝罪を求める」と要求した。
 品川市長は「市議会での答弁をごらんいただきたい」と述べ撤回や謝罪には応じなかったが、波紋の大きさに「今後はTPOを考え発言する」と話した。10団体は今後も撤回や謝罪を求めていく意向だが、市長はネット上にも飛び交う賛否の声について、7月25日の会見で「いろいろ耳にしている」とした上で、「これまでの市議会での答弁に沿って、お考えいただきたい」とだけ語った。
喫煙所閉鎖の強烈指針
 一連の出来事には伏線がある。市が昨年から進めてきた禁煙施策だ。
 昨年6月、市は関連施設の敷地内全面禁煙を柱とする「受動喫煙防止対策指針」を策定し、約600カ所の喫煙所を閉鎖し、すべての灰皿を撤去した。この取り組みは屋外での喫煙も認めない点で、7月18日に成立した健康増進法改正案より踏み込んだものだ。
 もともと市の職員安全衛生委員会が約1年間議論し昨年3月、提言したもので、当初は職員の健康配慮という趣旨だった。だが、その後、提言に基づき市民アンケートや指針策定を行い、昨年6月、市役所をはじめ図書館、公園、公民館、福祉施設など市有施設全てで全面禁煙に踏み切った。
 このため市議会で議論になり、今年3月には関係団体による見直しを求める請願を議会が採択する事態になった。「市の方針は国の方針を上回り厳しすぎる」(市議会議員)というのが理由だ。関係10団体による今回の意見書にも全面禁煙見直しが含まれ、反発に輪を掛けている。
 市長発言を機に勢いが加速する禁煙、たばこをめぐる議論は「分煙」のあり方も絡み、おさまりそうにない。国や他の自治体に先行した取り組みの中で起きた対立は受動喫煙対策を考える上で試金石となるのか。(福島支局 内田優作)