暗躍するロシア民間軍事会社「ワグナー」 中央アフリカの記者殺害でまた疑惑

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1日、モスクワの露ジャーナリスト協会には、殺害された3人のジャーナリストの写真が置かれ、多くの関係者が死を悼んだ(AP)

 内戦状態の続く中央アフリカ共和国で7月末、ロシアの反政権派ジャーナリスト3人が移動中に襲撃を受け、殺害された。3人は、現地で暗躍するロシア系民間軍事会社(PMC)「ワグナー」の活動を調査しようとしていた。ワグナーはプーチン露大統領に近い人物の傘下にあり、「被害者らは政権に不都合な取材をしようとしたために消されたのではないか」との疑惑がくすぶっている。

 襲撃は7月30日の日没後、中央アフリカの首都バンギから約185キロ北方のシブート近郊の路上で発生。乗っていた車が待ち伏せしていたとみられる集団に銃撃され、記者とディレクター、カメラマンが死亡した。現地人の運転手だけが難を逃れたが、事件後は当局に囲われており、当時の詳しい状況は分かっていない。

 ジャーナリスト3人は、プーチン氏の政敵として長年獄中にあった元石油王、ホドルコフスキー氏=在英国=が支援するメディア事業体の仕事を請け負い、中央アフリカのワグナーを取材しようとしていた。

 露外務省は「3人は強盗に襲われたようだ」との見解を発表。中央アフリカでは宗教対立の絡む武力衝突が続いており、現地の治安が悪いのは間違いない。

 ただ、被害者らは経験豊かなジャーナリストとして知られていた上、当初予定の移動経路を変更して襲撃にあっているなど、不可解な点が少なくない。何より、「3人を消すことによって『利益』を得る勢力が確実に存在する」(露識者)ということが疑念を呼んでいる。

 ロシアでは、PMCや傭兵が法的に禁じられている。現実には、多数の報道や証言から、香港に拠点を置くワグナーが、ロシア人傭兵をウクライナ東部紛争やシリア内戦に機密派遣したことが判明している。

 ウクライナでは2014年、同国政府軍と東部の親露派武装勢力の紛争が勃発。プーチン政権は関与を否定してきたものの、実際には、ウクライナの親欧米派政権に打撃を与える狙いで多数の戦闘員を送り込んでいた。

 ロシアはシリア内戦をめぐっても、アサド政権への支援が空軍派遣など「限定的なものだ」と説明してきた。しかし、今年2月には、ワグナーの部隊が米軍などの空爆を受け、推定約300人の死傷者を出した。PMCを使い、公式の説明よりもはるかにシリアに深入りしているのだ。

 ワグナーを牛耳っているのは、サンクトペテルブルク出身の実業家、プリゴジン氏。外食産業分野でプーチン氏と近い関係を築いたことから「プーチンのコック」の異名をとる。巨額の国家事業を受注する見返りに、「プーチン大国路線」の汚れ役や先兵役を請け負っている形だ。

 ワグナーは、ウクライナ東部紛争への関与で米国の制裁対象となった。プリゴジン氏は、米大統領選へのサイバー干渉を首謀したとして訴追されてもいる。

 今回のジャーナリスト殺害は、東西冷戦時代に米ソ角逐の場だったアフリカで、ロシアが失われた影響力の回復に動き始めた実態も浮き彫りにした。

 中央アフリカは1960年にフランスから独立し、その後も同国が政権交代などに関与した。だが、2013年には内戦を理由に国連の武器禁輸措置を科され、フランスも中央アフリカから手を引きつつある。

 ロシアは昨年来、中央アフリカのトゥアデラ政権と関係を緊密化。12月には、国連安全保障理事会で、同国の治安部隊育成などを名目に、武器禁輸の例外措置を認めさせた。ワグナーは「文民指導員」(露外務省)の派遣枠を隠れ蓑に展開し、大統領警護のほか、ダイヤモンドや金の鉱床警備を行っているもようだ。

 ワグナーをめぐっては今年4月、シリアへの傭兵派遣を暴露した露中部エカテリンブルクの記者が、自宅アパートから転落死する不審死事案が起きている。

(モスクワ 遠藤良介)

 民間軍事会社(PMC) 軍の下請け業務や紛争地での施設警備などに当たる民間組織で、東西冷戦終結後に急増した。2000年以降はアフガニスタンやイラクでの対テロ戦で米軍の後方支援業務を担い、存在感を高めた。PMCの活用が進んだ背景には、後方業務を委託した方が効率的で費用が安く、戦闘による犠牲者が出た場合に政権が世論から受ける痛手が少ない-という事情があった。同時に、PMCをめぐる法的な曖昧さはしばしば問題視される。