【経済インサイド】大手信託銀が「地銀囲い込み」で生き残りへ 人口減の地銀にもメリット - 産経ニュース

【経済インサイド】大手信託銀が「地銀囲い込み」で生き残りへ 人口減の地銀にもメリット

みずほ信託銀行の飯盛徹夫社長=東京都中央区(宮川浩和撮影)
みずほ信託銀行。地方銀行に信託基盤とツールを提供し、地方の信託ニーズを取り込む(同社提供)
 大手信託銀行が地方銀行の囲い込みで火花を散らしている。高齢化が進む地方で相続や遺言に関する手続きを代行する信託ニーズが拡大する中、地方支店が少ない信託銀にとって強固な地域基盤を持つ地銀との連携は今後の成長を左右する。超低金利による収益低迷にあえぐ地銀にとっても新たな手数料ビジネスは“渡りに船”で、信託銀がいかに相乗効果があるスキームを提示できるかが勝負となってきた。
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 「目指すは信託の“プラットフォーマー”だ」
 みずほ信託銀行の飯盛徹夫社長は地銀連携の青写真を力強く語った。
 プラットフォーマーとは、米IT大手グーグルやインターネット通販大手アマゾン・ドット・コムなど、第三者がビジネスするための基盤(土台)を作る事業者。信託の世界でどのような姿を描いているのか-。
 島根県と鳥取県を営業エリアとする山陰合同銀行が7月23日、「ごうぎん遺言代用信託」と「ごうぎん暦年贈与信託」という2つの信託商品の取り扱いを開始した。遺言代用信託は、資産や受取人を資産をあらかじめ指定しておくことで、簡単な手続きで相続ができる。暦年贈与信託も受取人を指定しておくことで毎年の財産分与の手続きをせずに生前贈与ができる。ともに、高齢化で高まる相続ニーズに対応する商品だ。
 2つの信託商品には山陰合同銀の独自の商品名が付いており、顧客に販売するのも同行だが、実は信託の商品づくりや事務手続きなどを担っているのはみずほ信託だ。みずほ信託は国内店舗数が60と少なく、地方の旺盛な信託ニーズに「自力で応えるには限界がある」(森下充弘執行役員)。そこで、地銀に代理店として商品を売ってもらうことで手数料を得る新たなビジネスモデルの構築に動いている。
 もっとも、同様のビジネスは三井住友信託銀行や三菱UFJ信託銀行といった他の大手信託銀も取り組んでいる。地方に幅広いネットワークを持つ地銀と組めば、信託銀は顧客層を広げられるからだ。
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 一方、地銀にとっても大手信託銀との連携はメリットが大きい。金融庁によると、地銀の30年3月期決算で104行のうち54行が本業で赤字だった。日銀の大規模金融緩和で超低金利が続き、利ざや(貸出金利と預金金利の差)が縮小し、本業の融資業務でもうけられなくなっている。このため、金融商品の販売を通じた手数料収入の獲得に活路を見いだしており、とりわけニーズの強まる信託への関心は高い。だが、地銀が信託業務に参入するには、信託設定などの業務ノウハウが必要でハードルは高かった。
 大手信託銀が地銀と連携した信託ビジネスを新たな収益源に育成するには、地銀と“ウィンウィン”の関係を提案し、いかに地銀との関係を強化できるかが鍵を握る。地銀の囲い込みをめぐる戦略は各社各様だ。
 みずほ信託は今秋に地銀が顧客に商品を提案しやすくなるよう資産承継を簡単にシミュレーションできるアプリを業界で初めて提供する。信託機能だけでなく、業務を効率化するツールも合わせて提供し、地銀の信託ビジネスに欠かせない存在になるのが戦略の要だ。
 既に地銀8行と提携しているが、「その倍以上の地銀から相談を受けている」と森下氏は明かす。同行の信託商品を取り扱う地銀の店舗数は8行合計で約900だが、年内には1千を超える見通しだ。
 三井住友信託を傘下に持つ三井住友トラスト・ホールディングスは昨年末、地銀が扱う投資信託や保険などの金融商品の評価、販売ノウハウなどを助言する「投信・保険ビジネス総合研究所(M&I総研)」を設立し、今年4月に営業を始めた。
 信託商品は対象外だが、地銀との連携を深めつつ、地銀側からの存在感を高めることで、将来は信託も含めた協業への発展も視野に入れている。6月には千葉銀行など地銀4社がM&I総研に資本参加するなど、地銀との関係構築は着実に進んでいる。
 一方、三菱UFJ信託は自行の信託業務の研修を地銀に提供し、地銀の信託参入を支援する。同行は10月にアパートローンなどの個人向けの新規融資から一部を除いて撤退し、経営資源を強みのある信託業務に特化する方針を打ち出しており、地銀との連携をさらに強化する可能性もある。
 信託協会によると、加盟会社が受託した信託財産の総額は30年3月末に1141兆円と5年前より4割超拡大した。大手信託銀が地方を中心とした信託の高い成長を取り込むには、地銀との補完関係の構築がさらに重みを増す見込みで、「地銀囲い込み競争」も激しさを増しそうだ。(経済本部 万福博之)