児童の安全は守られているか…クーラー設置の小中学校は4割 国補助は耐震化・トイレ改修優先

安倍政権考

 今年の夏は埼玉県熊谷市で国内観測史上最高の気温41・1度を観測するなど、猛暑が続く。この事態を受け政府は来年夏までに全国の公立小中学校でクーラーの設置を進める方針を示した。国は現在も地方自治体のクーラー設置に補助金を出しているが、設置数は地域によって大きなばらつきが生じている。何が障害になっているのか。

地域の偏り

 菅義偉官房長官(69)は7月23日に出演したBSフジ番組で、こう述べた。

 「(猛暑対策は)緊急の課題だ。クーラーが設置できていないところは早急にしないとならない」

 翌24日の記者会見でも「児童・生徒の安全、健康を守るための猛暑対策は緊急の課題だ。学校へのクーラー設置を支援していく必要は当然ある。今後、関係省庁に具体的に検討させたい」「来年のこの時期に間に合うことができるように政府として責任を持って対応したい」と強調した。

 文部科学省によると、全国の公立小中学校の教室(理科室などの特別教室も含む)に対するクーラーの設置率は平成29年4月時点で41・7%だった。10年7月は6・6%、22年10月は18・9%、26年4月は29・9%と着実に増えてはいるが、いまだに半数以上の教室にクーラーがない。

 しかも地域の偏りが極端に出ている。29年4月時点の都道府県ごとの設置率は、香川県92・3%▽東京都84・5%▽滋賀県77・9%-の順に高かった。最低は北海道の1・9%で、次いで青森県4・5%、岩手県5・1%だった。

 どうして、このような事態になっているのか。香川県によると、今年のように猛暑となった22年を契機に空調設備の整備が進んだという。高松市では、23~26年度で全公立小中学校での設置を済ませた。

 東京都では22年度から国の補助とは別に、冷房設備設置の補助事業を開始。普通教室への設置率は99・9%となり、今後は特別教室への設置を進めるという。

 一方、設置率下位5位までは、ほとんどを北日本地方の自治体が占めている。設置率が最低の北海道は「暑い地域ではないので、冷房設備の必要性がそんなに高くないのではないか」と説明する。

 先に「国の補助」と書いたように、クーラー設置には国の支援がある。ならば北国はともかく、西日本でも一律で設置が進んでもよさそうだが、設置率ワースト10位内には愛媛(13・2%)、長崎(14・8%)、山口(18・2%)各県もある。

 公立小中学校へのクーラー設置事業に充てられる国の補助は「学校施設環境改善交付金」。5年度の補正予算から適用が始まり、30年度予算では287億円確保されている。

 交付金は各市区町村がそれぞれの都道府県を通じて申請し、文科省が精査した上で交付額などを決定する仕組みだ。補助率は原則として約3割となっている。

 ところが、この交付金は「教育環境の改善推進」が目的で、クーラーの設置だけでなく、校舎の耐震化やトイレの設置なども対象に含まれるのだ。文科省は30年度予算の概算要求の段階で、「優先順位付け」の対象として「耐震性の低い建物を中心とした耐震対策」などを掲げたが、クーラー設置には触れていなかった。

耐震化は98%

 年々進んでいた公立小学校の耐震化率は22年4月時点で73・3%だった。23年3月11日の東日本大震災を機に耐震化はさらに進み、29年4月時点で98・8%に達している。クーラーの設置は耐震化優先のあおりを受けているといえそうだ。

 例えば愛知県では、30年度にクーラー設置への補助を申請した県内67校のうち、1校も認められなかった。その背景について、文科省は「児童・生徒の安全を守る耐震化や教室不足の解消などが、空調設備よりも優先順位は高い」としている。

 実際、愛知県に割り当てられた交付金額は約8億円で、その約9割を耐震化やトイレの改修などの事業が占めているという。

 別の事情もありそうだ。千葉市は公立小中学校の普通教室のクーラー設置率が0%となっている。

 クーラー設置の補助に関し、国は基準として教室1平方メートルあたりの単価を2万2200円としている。このうちの約3割を国が負担している。

 ただ、単価は各地の物価や労務費などによって変動するため、実勢価格との乖離(かいり)が生じている。千葉市が特別支援学校などで29年度にクーラーを整備した際の1平方メートルあたりの単価は4万2808円となり、補助率は総経費の約15%にとどまった。

 補助制度の改善もさることながら、クーラーの設置を進めるためには最終的には予算を増やすしかない。愛知県の大村秀章知事(58)は7月23日の記者会見で「予算確保について考えてもらった方がいい」と訴え、文科省も「予算を確保すべく取り組みを進める」としている。

 総務省消防庁によると、7月に熱中症が原因で緊急搬送されたのは全国で5万2819人、死者は124人に上った。いずれも1カ月あたり過去最多で、“災害”といえる。愛知県では校外学習から教室に戻った小学校1年生の児童が熱中症で死亡する悲劇も起きた。「児童・生徒の安全を守る」という意味で、学校へのクーラー設置は命に関わる問題になっている。 (政治部 宮野佳幸)