米グーグルは「中国の検閲に屈するのか!」 再参入観測で論争、ネット空間の“中国化”に悲観論も

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2018年5月、米カリフォルニア州で、米検索大手グーグルのイベントで話すピチャイ最高経営責任者(CEO)=AP

 米検索大手グーグルが中国再参入を検討していると米メディアに報じられ、米議員や人権団体から批判を浴びている。同社が参入の条件として当局の検閲を受け入れることになると想定されるためだ。米IT大手ではアップルも、情報の安全性に疑念が残る中国国内でのデータ保管に同意。巨大市場の吸引力に抗しきれない米企業の動向は、ネット空間の主導権争いで中国に押される米国の姿を印象づけている。

検閲対応のソフト

 米ニュースサイト「インターセプト」の今月初めの報道によると、グーグルが「ドラゴンフライ」(トンボ)と呼ぶプロジェクトのもと、中国当局の検閲に対応した検索エンジンの開発を進めていることが判明した。

 中国再参入を目的とする同プロジェクトは、昨年春から同社内のごく限られたメンバーで進められ、すでに試行版が中国の政府関係者に公開された。中国当局の検閲システム「グレート・ファイアウオール」で禁じられたサイトやキーワードが、自動的に表示されない仕組みという。

 報道内容の一部は、米紙ウォールストリート・ジャーナルなどの主要メディアが確認して後追いしたが、開発は初期段階だったとみられる。

 ただ、その後、ブルームバーグ通信は、グーグルが中国でのクラウドサービス提供のため、中国IT大手の騰訊(テンセント)などと提携協議を進めていると報道。グーグルが中国再参入に意欲的な様子が浮かび上がっている。

「共謀」に厳しい批判

 グーグルは2006年に中国に参入し、検索事業で一定のシェアを確保した。だが10年、電子メール「Gメール」を使っていた人権活動家へのサイバー攻撃や当局の検閲に反発し、中国撤退を決めていた。

 それだけに、「表現の自由」や人権の抑圧につながるとして、人権擁護団体が「検閲の共謀者となるべきではない」(ヒューマン・ライツ・ウオッチ)などと批判を展開している。

 また、米上院のウォーナー議員(民主党)やガードナー議員(共和党)ら超党派の6人は、グーグルのピチャイ最高経営責任者(CEO)宛ての書簡で、中国の検閲を受け入れることには「深刻な問題がある」と同社を牽制(けんせい)。

 書簡で6議員は「中国事業を模索するほかの企業にとって、やっかいな先例になる」と指摘。グーグルが撤退した10年から、中国の検閲態勢は改善していないことに注意を促している。

 グーグルの撤退判断は、共同創業者のセルゲイ・ブリンCEO(当時)の意向が反映されたとされる。ソ連から米国に渡った家庭に生まれたブリン氏は、その際、ウォールストリート・ジャーナルに「(検閲は)全体主義の目印だ」と述べて、検閲の受け入れを拒絶する考えを示していた。

暗いネットの将来

 中国市場に関心を寄せるグーグルの動きに対し、多くの米主要紙は批判的だ。ワシントン・ポストのコラムニスト、ジョシュ・ロギン氏は「米テック企業の将来は中国に見いだせないことは明らかだ」と述べ、インドやアフリカ、東南アジアの成長市場に目を向けるべきだと主張する。

 ただ、7億人を超えるネット人口を擁する中国は、外国のIT企業にとって捨てがたい市場だ。米IT大手では、グーグルだけでなく、アップルも事業拡大を狙う。

 アップルをめぐっては、中国の国営通信会社「中国電信」が7月、アップルのデータ保管サービス「iCloud(アイ・クラウド)」で、中国国内ユーザーのデータ保管を担当することになったと発表。英BBC放送によると、データが当局の影響下にある企業に管理されることに対し、人権団体が「(アップルが)顧客のプライバシーを重視するとの主張を台無しにする」(アムネスティー・インターナショナル)と懸念を寄せている。

 こうした米IT大手の動向は、トランプ米政権が知的財産権の侵害をめぐり、中国に対する制裁措置を断行する中で進んでいる。米政権は、中国政府によるハイテク産業育成策「中国製造2025」を問題視。情報技術や人工知能(AI)などの分野で、米技術覇権に挑もうとする中国への対抗姿勢を鮮明にしている。

 専門家の間では、表現の自由を重視する「開かれたネット空間」を牽引(けんいん)してきた米国の主導権維持を疑問視する見方も出ている。

 米外交問題評議会(CFR)のアダム・シーガル氏は、外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」で、「サイバー空間の将来像は、さらにアメリカ型から離れ、一段と中国仕様になっていく」と指摘。巧妙にネット空間での存在感を高める中国の戦略に危機感を示している。(ワシントン支局 塩原永久)