ボクシング騒動 山根前会長の横暴を許した「ムラ社会」 木村悠氏

iRONNA発
辞任を表明する日本ボクシング連盟の山根明会長(当時) =8日、大阪市

 日本ボクシング連盟の内紛劇は、山根明会長が辞任し、騒動は収束に向かいつつある。それにしても、山根氏はなぜ長年にわたり連盟を「私物化」できたのか。元世界王者が核心を突く。(iRONNA)

 アマチュアボクシングが注目されるのは、やはりオリンピックの時ぐらいで、日ごろはプロの陰に隠れて目立たない。プロ、アマ両方の経験を持つ筆者にとって、アマが今回ほどメディアに露出することがなかっただけにその異常さに驚いている。

 そもそも、アマは限られた人たちで構成される非常に狭い「ムラ社会」だ。筆者はライトフライ級という一番軽い階級だったが、全国大会でも20人ぐらいで30人出場していれば多い方だ。

 そのため、地方の予選をクリアして3回から4回ほど勝てば決勝に進むことができる。人数が少ないため社会人の全国大会は大体同じメンバーで決勝が争われる。全国大会で優勝または上位に進出すると全日本王者となり、全日本のメンバーに選出される。

 各階級で3人ほど選ばれ、全部で25人前後のトップ選手がオリンピックの強化指定選手になる。選手の選出や海外遠征、合宿など、それらを取りまとめているのがボクシング連盟である。他のスポーツに比べてコアな社会だけに、連盟というより「会長」のさじ加減一つでどうにでもなる。

 ■絶対的権力

 こうした構造がある限り、選手は閉塞(へいそく)的な「ムラ社会」の中で、会長の意向や組織に翻弄され続けることになり、これでは競技に専念できる環境があるとはいえない。

 筆者のアマ時代、山根氏は日本ボクシング連盟の理事の一人で、特に存在が知られていたわけではなかった。当時の会長は、山根氏のような存在ではなかったが、「山根判定」や「奈良判定」などと言われる、会長の「権力」が反映されたものは確かにあった。ただ、それに反論できる雰囲気はまったくなかったのも事実である。

 思うに、今回の騒動は山根氏という特異な人物の所業によるところが大きいが、根本を考えれば、古い日本の企業体質とよく似ている。会社のトップである社長が絶対的な権力を持ち、幹部や役員は社長の取り巻きでしかない。

 よく言われることだが、アスリートは非常に扱いやすい。幼い頃から「体育会」という上下関係に慣れているため、上の命令には背かない傾向があるからだ。特にアマチュアボクシングの世界では「会長」というトップを過剰に崇拝する空気感が強い。例えば、試合会場に会長が姿を現すと、必ず選手やコーチがあいさつをしに行く。もし行かなければ、それは背信行為に等しい。

 ■選手ファースト

 誰からも頭を下げられる状況が当たり前のように続けば、当人も自分が絶対的な存在であると勘違いしてしまう。そう考えれば、山根氏の暴走を止められなかった周囲にも責任がないとはいえない。

 今回の騒動は、山根氏が辞任を表明したことで、一旦は収束するだろう。だが、会長が代わったところで現状の体制が見直されなければ、新たな「山根明」を生み出すだけである。組織第一ではなく、「選手ファースト」を重視した改革が必要だろう。

 まずは、上意下達や年功序列の慣習を取り払い、優秀な人材なら若くても理事に起用する。元プロ選手や日本オリンピック委員会(JOC)からも人材登用すれば、閉塞的な「ムラ社会」から脱却できるだろう。

 ボクシングに限らず、アマチュアスポーツは今、あしき体質が相次いで明らかになり、変革の時期を迎えている。2020年東京五輪を控え、選手の目線に立った組織運営に変え、競技に集中できる環境作りを進めなければ、到底世界には太刀打ちできない。むろん、筆者も可能な限り、協力していくつもりだ。

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【プロフィル】木村悠

 きむら・ゆう 元WBC世界ライトフライ級王者。昭和58年、千葉県生まれ。法政大卒業後、ボクシングジムに入門。商社に就職し、ボクシングと両立させながら、平成27年に王者となる。28年に現役引退し、現在は解説やコラム執筆、講演などを行う。プロ戦績は18勝3敗1分け。