アルファロメオ ステルヴィオ 「悪魔の梯子段」が異名のSUV

木下隆之の試乗スケッチ
ステルヴィオと木下さん

 1世紀を超えるアルファロメオの歴史上、初めてとなるSUVの名を聞いて色めき立った。その名はなんと、「ステルヴィオ」だという。世界の趨勢はSUVに向かっており、いまやSUVを揃えてなければ自動車メーカーにあらずだから、アルファロメオにSUVが加わってもことさら驚きはないのだが、その名が刺激的すぎて腰を抜かしかけたのである。

スポーツカーすら悲鳴上げる難所

 「ステルヴィオ」はイタリア北部のステルヴィオ峠に由来する。アルプス山脈にへばりつくように刻まれた峠道であり、スイスとの国境に沿う。標高は2757m。「悪魔の梯子(はしご)段」と恐れられ、世界の走り自慢が踏破を挑むことでも有名なのだ。

 僕もこの地に足を運んだ経験がある。その目的はとりもなおさず、世界一過激だと思われる峠道に挑むためだ。太陽の光が強く降り注ぐ、夏の暑い日だった。

 麓は避暑地として栄えている。ホテルのプールには水着でくつろぐ家族連れがいた。そんな平和な避暑地に峠道の起点がある。目の前にそびえるアルプス山脈を、一気に登り切るのが醍醐味。頂上付近は肌寒く、夏だというのに残雪があった記憶がある。

 走り自慢のコンパクトスポーツをわざわざ日本から空輸して挑んだのだが、オーバーヒートとブレーキのフェードに悩まされた。勾配はきつく、名ばかりのスポーツカーではパワー不足を晒すことになる。下りは下りで、ブレーキが音をあげる。特徴的なのは、登りはひたすら登りのみ。下りはやすむことなく下りが連続する。エンジンにもブレーキにも酷な環境なのだ。

 しかも、短い直線と直線をつなぐヘアピンカーブは、1速ギアの守備範囲。超タイトなのだ。端から眺めると、巨人が山脈に爪を立てたようである。悪魔の梯子段の異名も相応しい。ステルヴィオ峠はそんな、走り屋を魅了しながらも強く拒絶する難所なのである。

自信裏付けるデータもズラリ

 そう、そんな世界的な難所の名を、SUVに命名したことが驚きなのだ。百歩譲ってスポーツカーならばよしとしよう。だがステルヴィオは背の高いSUVである。よほどの自信がなければ、ステルヴィオとは名乗れますまい。

 一抹の不安を抱えながら、試乗プレゼンテーションに耳を傾けていると、自信を裏付ける刺激的なデータが次々に僕を驚かせた。

「前後重量配分50:50」

「直列4気筒2リッターターボ」

「最高出力280ps」

「最大トルク400Nm」

「前後可変トルク4WDシステム」

「常用FR駆動」

「軽量カーボン製ドライブシャフト」

「車両重量1810kg」

「ロール角度約50%」

「ロール軸ジュリア(アルファロメオのセダン)と同一」

「空気抵抗係数0.30」

「最大横加速度0.95g」

「ステアリングギアレシオ12:1」

「最大制動距離(100-0km/h)37.5m」

 スポーツカーの紹介と見まごうばかりの攻撃的な文言である。

ステアリングもキレッキレ!

 要するに、エンジンは強烈なトルクを発揮するターボであり、カーボンを多用することで軽量化は驚くほどである。だから驚くほど速い。それでいて、理想的なウエイトバランスであり、4WDだからトラクションに優れており、ステアリングはクイックだと宣言しているのである。

 さらには、最強グレードのクアドリフォリオが、世界一過激なニュルブルクリンクサーキット(ドイツ)でSUV最速の7分51秒7を記録したと告げるのだ。

 実際にドライブしても、その名に恥じない熱い走り味が込められていた。ステアリングの反応はキレッキレである。エンジンパワーは強烈にトルクフルである。SUV的な不快なロール(横方向への傾き)は全くない。視点の高さを除けば、SUVであることを忘れてしまう。軟弱なスポーツカーならば、涼しい顔をして抜き去ることもできるだろう。本当に…。それでいて、乗り心地も悪くはないのだから、恐れ入る。

 その名は伊達じゃなかった。アルファロメオはSUVにも鼻息荒く、カミソリのようにキレッキレなモデルを送り込んだのだ。

 「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。掲載は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。

 木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。

【プロフィル】木下隆之 きのした・たかゆき レーシングドライバー、自動車評論家、ブランドアドバイザー、ドライビングディレクター。東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位。雑誌/Webで連載コラム多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。