空前の大改革「日本版NCAA」と大学スポーツの行方 池田純スポーツ庁参与

大学最前線・この人に聞く
池田純氏

 大学スポーツの一大改革をめざし、スポーツ庁の肝いりで今年度中の創設にむけた準備が進む競技横断的統括組織「日本版NCAA」(仮称)。往時に比べて各競技に対する国民的関心が薄れ、日大アメフット部問題で揺れる大学スポーツ界再興の切り札になるのか。横浜DeNAベイスターズの経営を再建に導いた後、スポーツビジネスの分野でマルチに活躍するキーマン、池田純・スポーツ庁参与(42)を直撃した。(関厚夫)

 “メイド・イン・ジャパン”は米国の“本家”を超える?

 〈「NCAA」は20世紀初頭に設立された「全米大学体育協会」の略称。「学業」「安全」「公正」を3大理念とし、罰則をともなう学業優先規定や厳格なアマチュア規定でしられる。米国の大学の半分にあたる約1100校が加盟。約1000億円の年間収入は加盟大学や地域リーグに配分され、施設整備や奨学金などにあてられている。一方、日本の大学スポーツ界は明治以来、各大学や中央競技団体、学生競技連盟(学連)が独自の歩みを刻んできた歴史がある〉

 --「本家・NCAA」は競技の人気がアメフットやバスケットボールに集中し、収入の大部分をテレビの放映権料に頼っているなどの指摘がありますが

 「誤解のないように申し上げますが、日本版NCAAについては先日、設立準備委員会が立ち上がったばかりで、私は15ある作業部会の1つである『大会レギュレーションの整備』の主査にすぎません。全体的・具体的な議論はこれから活発化してゆくところです。

 私見では日本版NCAAという仮称で注目すべきは『NCAA』よりも『日本版』の方で、日本の大学スポーツの歴史や現状に鑑みた組織となるはずです。また、大学スポーツ先進国・米国のNCAAには課題もあるでしょうが、見習うべきところもたくさんあると考えています」

 --たとえば?

 「『student-athlete(学生アスリート)』を育成するという基本姿勢です。大学スポーツを通じて社会で活躍できる人材を輩出してゆこうとする確かなビジョンをそこに感じます。だから学生アスリートはしっかり勉強しなければ競技ができなくなる一方で、特定の科目が不得手の学生には大学が責任をもってサポートする体制があると聞いています」

 student-athleteとスポーツビジネスは両立するのか

 --著書に「スポーツビジネスとはスポーツエンターテインメントビジネスである」とあります。これは大学スポーツにもあてはまるのでしょうか

 「大学は学びの場であり、大学生のアスリートはアマチュアである-。この考えは日米共通で、日本版NCAAでも学生アスリートはプロやビジネスの世界とは一線を画します。たとえばファンサービスを学生アスリートに強いるべきではありません。彼らはプロでも、競技を主眼とした『athlete-student(アスリート学生)』でもないわけですから。ただ、プロ入りを視野に入れる学生アスリートが学びの場でスポーツビジネスの基礎にふれる機会はあってもよいとは思います。

 他方、学生スポーツの大会は社会人も運営に関わります。そこではスポーツエンターテインメントの要素がなければ人気や発展がのぞめません。試合や大学の歴史、選手の経歴といった要素をIT・AI時代のいま、どう『見(魅)せて』ゆくか。スポーツビジネスを学問として考えた場合、大学スポーツは格好のフィールドワークの場です。日本のスポーツビジネスの発展のためにも、スポーツやビジネスに関心をもつ一般の学生がそこに携わり、しかも大学で単位がとれるようになればよいのですが」

 「全体最適」で現状打破を

 --NCAAはアメフットの試合で死傷事故が相次ぎ、当時の米国大統領が大学スポーツの改革を要求したことを機として誕生しました。日本でも日大アメフット部問題が起きました。日本版NCAAは同様の問題の再発を防ぐ特効薬になるのでしょうか

 「日大アメフット問題にはさまざまな側面があります。特効薬で何か一つを解決すれば全て解決するような単純な問題ではありません。また憲法が保障する『学問の自由』に基づく『大学の自治』という大原則があります。大学で解決できることは大学で解決しなければならないのです。

 とはいえ『集合知』というものがあります。それを共有することによって、一つの大学だけが発展したり、批判の矢面に立たされたりするのではなく、大学スポーツ全体が発展してゆく道を探るのが正論ではないかとも考えています。

 私がプロ野球に携わった7年前、球界全体が下降線でした。そうした環境もあってDeNAがベイスターズを買収できたわけですが、経営やエンターテインメントの分野で多様な取り組みを進め、それを各球団が共有することで『全体最適』に昇華され、球界全体が上昇気流に乗る一助を担ったという自負があります。

 ある競技でうまくいったノウハウがどんどんほかの競技に伝わってゆく。それが日本の大学スポーツ発展の処方箋だと思います」

 いまこそ五輪・W杯需要を満たす「受け皿」が必要

 --来年はラグビーW杯、再来年は五輪・パラリンピックが日本で開催されます。これらと大学をはじめとするスポーツ界が連携して一つのストーリーを奏で、レガシーを残すことは可能でしょうか

 「『受け皿』次第です。たとえば五輪でスポーツがブームになったときに各競技が『観る』と『する』視点に立っていかに多くの機会を提供できるか、です。

 今年はサッカーW杯がロシアで開催されました。Jリーグではイニエスタやトーレスといったビッグネームがプレーしていますが、日本代表の健闘を考えた際、『受け皿』としてまだ弱い。ラグビーについてはW杯開催前年のいまこそ、『観る』『する』ための強力な受け皿が必要です。

 その意味で野球は一つのお手本です。WBCや五輪のたびにプロ野球は生活に密着した『観る』『する』双方の受け皿として機能してきました。でも、安泰ではありません。人口が減少するなか、東京五輪以降も現状維持ではなく、さらなる発展を期さねば衰退します。ましてや他のスポーツは、ではないでしょうか」

     ◇

 池田純(いけだ・じゅん) 昭和51(1976)年、横浜市生まれ。早大商学部卒業後、住友商事、博報堂勤務などを経て平成19年、ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。23年、横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。28年に契約期間満了に伴って退任するまでの5年間で観客動員数を8割増、単体での売り上げを倍増して黒字化に成功するなど、慢性赤字化していたベイスターズの経営を立て直した。現在はスポーツ庁参与のほか明治大学学長特任補佐、Jリーグアドバイザーなどを務める。著書に『空気のつくり方』『常識の超え方』『最強のスポーツビジネス』(編著)など。