【野口裕之の軍事情勢】北朝鮮の金正恩氏と会い感涙にむせんだ韓国諜報機関トップ 「侮軍」→「楽しい軍」の次は「弱軍路線」! - 産経ニュース

【野口裕之の軍事情勢】北朝鮮の金正恩氏と会い感涙にむせんだ韓国諜報機関トップ 「侮軍」→「楽しい軍」の次は「弱軍路線」!

4月27日、夕食会で言葉を交わす北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅大統領=板門店の韓国側施設「平和の家」(韓国共同写真記者団撮影)
韓国の文在寅大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=4月27日、板門店(韓国共同写真記者団撮影)
会談前に握手する(左から)韓国の宋永武国防相、マティス米国防長官、小野寺五典防衛相=6月3日、シンガポール(共同)
横付けしホースを接続する北朝鮮船籍のタンカー(左)と船籍不明船。「瀬取り」とみられる=6月29日、東シナ海の公海上(防衛省提供)
6月29日、韓国・平沢の米軍基地キャンプ・ハンフリーで開かれた在韓米軍司令部庁舎の開館式(共同)
韓国海軍の「孫元一」(ソン・ウォニル)級潜水艦(韓国海軍HPより)
悪路で動けなくなった戦車を回収する訓練を行うK2戦車(韓国陸軍HPより)
 大規模・本格的な諜報機関がない日本に、嘲笑したり批判したりする資格が果たしてあるのかは疑問だが、どう考えても理解できない。韓国の文在寅大統領と北朝鮮・朝鮮労働党の金正恩委員長の間で行われた南北首脳会談(4月27日)の席上、感激して涙を流した韓国政府高官がいたことだ。
 金正恩氏に「そうか、そんなに会いたかったのか」と、今以上に反り返られる愚行中の愚行ではないか。しかも、驚くべきことに、韓国国民を拉致し、核・ミサイルで恫喝する独裁者を前に感涙にむせんだのは、あろうことか韓国の諜報機関・国家情報院の院長だった。
 国家情報院は北朝鮮の軍事作戦や諜報戦の意図・能力・実態を収集し、分析→脅威度を評価。スパイの摘発・逮捕を担う機関だ。情を完全に排除する姿勢を鉄則とする。実際、国情院の前身・韓国中央情報部(KCIA)は1973年、後に大統領に就任する金大中氏(1925~2009年)を東京都内のホテルで拉致し、船に乗せてソウルで軟禁している。
 最初は暗殺を目指し、大型トラックを金大中氏の車にぶつけ“事故死”させようとした。この暗殺事件では3人が死亡、金大中氏自身も大ケガを負った。CIA(米中央情報局)も暗殺を繰り返してきたとされる。ところが、強面なはずの諜報機関トップが韓国では、仮想敵の最高指導者やその側近がズラリとそろった公式の場で、「南北統一」を夢見て嬉し涙を流すらしい。
 嬉し涙には、金正恩氏のこれまでの蛮行&脅迫をすっかり忘れ、朝鮮戦争(1950~53年休戦)の終戦宣言→南北平和条約締結→在韓米軍撤退→南北連邦制→南北統一→反日核保有国建設…をもくろんでいるようにしている文在寅政権の正体が透ける。それ故、韓国を北朝鮮に「献上」すべく、国家情報院に備わるスパイ捜査権の警察当局移管や韓国軍の「解体」を、着々と進めている。
地雷除去に当たる工兵は親の同意が必要
 「専守防衛」が“国是”と信じ、安全保障上あり得ない虚構を自慢する日本も「国家の生存権を敵に差し出す自虐国家」だが、韓国も然り。韓国の国防戦略は「国妨戦略」と同義だと言って差し支えない。
 例えば、韓国国防省が7月末、文在寅大統領に基本方針を報告し確定した《国防改革2.0》。改革?によって《攻勢的新作戦概念》が削除された。《攻勢的新作戦概念》は《韓国軍が北朝鮮・朝鮮人民軍との全面戦争に際し、平壌を2週間以内に占領し、短期間で勝利する》戦局を想定する。勝利までの作戦期間が短いほど、味方の犠牲が少ない上、北朝鮮側は韓国への挑発・攻撃を躊躇するので、平時の抑止力にもなる。
 国防省の当初案では盛り込まれていたが、大統領府が反対し完全に削られた。当初案を牽引していたのは宋永武国防相で、「さすが海軍参謀総長(大将)出身」と持ち上げたいところなれど、宋氏も資質に疑問符が付く。
 3月に米海軍太平洋艦隊司令官スコット・スウェフト大将と会談した際、「米海軍の原子力潜水艦は朝鮮半島に展開しなくても良い」と放言した。米韓軍事同盟を否定する問題発言だけに、慌てた韓国国防省は「大臣の冗談だった」として即時、火消しに奔走した。
 《国防改革2.0》には大規模な兵力削減計画も明記された。現在61万8000人の総兵力は陸軍のみ11万8000人減らし、2022年までに50万人に削減する。つまり、陸軍は四分の一弱に相当する兵力を減らされ38万にとなる。
 陸軍の発言力と実力を弱めたい文在寅大統領の思想を象徴する「粛清」ではあるが、伏線はあった。文氏は大統領就任早々、海軍参謀総長の宋氏を国防相に、続いて軍人トップの合同参謀議長に空軍参謀総長だった鄭景斗大将を、矢継ぎ早に据えた。韓国軍創設以来初めて、国防相&軍人トップの2大要職を非陸軍出身者が独占したのだ。
 陸軍の縮小に伴い、5年後には最前線に配置中の師団11個を9個に改編する。日韓安全保障筋によると「各師団が担任する正面幅は40キロと、現行の2倍に負担が増える」。
 「数」を減らすのなら「質」で補うのが軍事の定石だ。しかし、徴兵制度下における兵役について、陸軍・海兵隊の服務期間21カ月は2021年末までに18カ月に短縮。23カ月の海軍は20カ月、24カ月の空軍は22カ月へと短くなる。
 日本もそうだが、韓国も今後少子化が確実視され、兵力は“自然減”する。少子化社会での兵役期間短縮は自殺行為だ。
 盧武鉉大統領(1946~2009年)の「侮軍路線」→金大中大統領の「楽しい軍隊路線」の次のサヨク政権の路線はどうなるのか?と気をもんでいたが「弱軍路線」であったとは、ああ。現に「地雷除去任務に当たる工兵は、親の同意が必要」とか。
 対する朝鮮人民軍は兵役期間7~10年の職業軍人を128万人も抱える。練度の低い新兵が多い50万人で持ちこたえられるのか、不透明要素が多過ぎる。
撤退したがっているのは在韓米軍も同じ
 こうした「軍縮」だけでも不安満載であるのに、米韓連合司令部が保持する「戦時作戦統制権を2023年には移管する」(宋国防相)と、大見得を切ってしまう。戦時作戦統制権の移管問題は過去、サヨク政権の度に浮上しては、保守政権が自らの実力に鑑み移管時期の延長を繰り返してきた、いわば韓国の宿痾だ。
 確かに《国防改革2.0》では、《韓国型3軸体系戦略》を予定通り確保し、計画通りに戦力化する旨がうたわれた。3軸体系とは、北朝鮮にミサイル発射の兆しがあれば先に破壊する《キルチェーン》+《韓国型ミサイル防衛=KAMD》+北朝鮮の攻撃に対し報復攻撃を行う《大量反撃報復=KMPR》を指す。3軸体系完成で「周辺国に中堅国家として完璧な国力を示し得る軍事力を持てるだろう」(宋国防相)と、自信満々だ。
 けれども、3軸体系が完成する予定の2023年を迎えてみないと、実現するか否かは分からない。なぜなら、日本の朝鮮半島統治時代の1919年に起きた“独立運動”と“大韓民国臨時政府樹立”から来年で100年になる節目を記念し、南北共催の「反日大イベント」が展開される懸念があるためだ。南北融和の象徴たる南北共催を盛り上げたい余り、北朝鮮に対抗する切り札ながら、南北融和に水を差す3軸体系を取り下げる可能性がある。
 米国防総省や在韓米軍司令部でも、同じ疑念を有しているようだ。そもそも、在日米軍と自衛隊の同盟関係とは全く違い、在韓米軍は韓国軍の精強性や士気・軍紀を信頼してはいない。朝鮮戦争で国民を置き去りにし、最高司令官・李承晩大統領(1875~1965年)以下、韓国軍は我先に雪崩を打って潰走したが、恥ずべき過去を少なくとも米軍の将校以上は戦史教育されている。
 李承晩同様、文在寅氏も大統領の資格があるか疑わしい。日韓安全保障筋によれば「文在寅政権では、米国防総省や在韓米軍と共有する軍事情報を北朝鮮側に流している兆候がある」。従って、漏洩者を特定すべくニセ情報すら流している、という。
 ところで、トップが凶悪な独裁者に会って感極まっても、国家情報院は“優秀”極まりない。何しろ、北朝鮮産の石炭の「行方」を完全に掌握していた。7月の韓国メディア=中央日報や聯合ニュースの報道を総合すると-
 《北朝鮮産石炭が昨年10月、ロシア産に化けて韓国に入った。国連安全保障理事会北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、6月に提出した報告書で記載していた。北朝鮮産石炭はロシアの港で一旦降ろされ、第三国の船舶で韓国の仁川や浦項に運び込まれた。浦項に陸揚げされた石炭は3650万円相当の5000トンだった》
 朝鮮日報の報道は国家情報院の“実力”を余すところ無く伝えた。韓国政府が輸入当時《北朝鮮産の可能性が高い》との情報を入手したのだから、国家情報院の“実力”はイヤ大したもの。ただし、見出しは《安保理決議違反の北朝鮮産石炭輸入に韓国政府が関与》で、黙認し、阻止しなかったというオチが付く。昨年12月の新たな安保理決議で、韓国当局はこの種の密輸船を拿捕・抑留できるのに、だ。
 北朝鮮系船に船舶を横付けし、石油などの積み荷を移し替える《瀬取り》も韓国政府は黙認していると、自衛隊や米軍は疑い始めている。
 さらに、韓国国防省が7月に国会国防委員会に提出した資料で、南北国境付近の非武装地帯(DMZ)に設ける《監視所》に配備する将兵や兵器の撤収を行う計画が明らかになった。4月の南北首脳会談で発表された板門店宣言にある《DMZの平和地帯化》に沿った措置。試験的な実施後に全面撤収に踏み切る模様だ。DMZは北朝鮮のスパイ・工作員の「通勤路」となろう。
 文在寅政権の一連の動きを観察すれば、日米の保守系専門家の間で噴出する「韓国は北朝鮮と呼応して在韓米軍の『駆逐』を謀っている」との仮説は、十分説得力を持つ。筆者も否定はしないが、後ろからバッサリとやられる危険を背負う在韓米軍も『駆逐』されたがっている。