【iRONNA発】北朝鮮 中朝蜜月で変わる非核化ゲームの行方 重村智計氏 - 産経ニュース

【iRONNA発】北朝鮮 中朝蜜月で変わる非核化ゲームの行方 重村智計氏

北京の人民大会堂で乾杯する習近平国家主席(右)と金正恩朝鮮労働党委員長 =6月19日(コリアメディア提供・共同)
北京の人民大会堂で乾杯する習近平国家主席(右)と金正恩朝鮮労働党委員長 =6月19日(コリアメディア提供・共同)
 トランプ米大統領は中国への関税制裁を強化し「米中貿易戦争」が激化している。むろん、これで漁夫の利を得ようとたくらむのが北朝鮮である。「振り子外交」の結果、中朝蜜月は進んだが、朝鮮半島非核化の行方は不透明さを増す。米中朝「非核化ゲーム」の先を読む。(iRONNA)
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 トランプ米大統領は今月1日、中国製品への経済制裁「第3弾」の発動を指示した。この米中首脳による「貿易戦争ゲーム」が北朝鮮への制裁を減圧し、米中朝の「非核化ゲーム」を大きく変質させている。北朝鮮は「中ソ・イデオロギー戦争」時代、中国と旧ソ連の間を行き来して支援を得る「振り子外交」を得意とした。この戦略を「米中貿易戦争」でも展開しようとしている。
 そもそも米朝関係は、3月末の中朝首脳会談までは、トランプ大統領が主導権を握り、「北朝鮮の『完全な非核化』」への期待が高まった。ところが、中朝首脳会談後に北朝鮮の姿勢が急変した。トランプ大統領は「中朝首脳会談後に北の姿勢が変化した」と批判し、一度は米朝首脳会談の中止に踏み切った。
 ◆駆け引きする習近平
 一方で、最近の中国は北朝鮮の石油密輸である「瀬取り」への制裁に反対するなど、これまでの米中協力の姿勢を変えている。中国は、貿易戦争を緩和すれば、北朝鮮への追加制裁にも協力するとの駆け引きを見せたのである。3回にわたる中朝首脳会談で、習近平主席は「トランプへの非協力」に姿勢を変えたという。その証拠に、米国は中朝首脳会談の内容を入手しているというのである。
 それによると、習主席は、「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の体制維持は保証する。そのため、10年間に1千億ドル(約11兆円)の支援を実施する」と約束したとされる。裏にあるのは、日米が制裁を強化しても中国の「保証」があるため心配するなという意味。つまり、「瀬取り」密輸こそが支援の始まりだったのである。
 また、中朝首脳がすでに合意した「非核化」について、「確実に実現してほしい」と伝えた上で、「10年の時間をかけてもいい」と述べた。要するに、習主席が退任するまでに非核化すればいいという意向のようだ。
 さらに、中朝首脳は「トランプ大統領の2期目はない」との見通しで一致し、「あと2年半時間稼ぎすればいい」との判断を確認したという。金委員長は中国の巨額支援と体制保証で安心したのか、対米姿勢を変えたわけだ。
 北朝鮮の姿勢変化を受け、トランプ大統領は「非核化交渉に期限は設けない」と述べ、ポンペオ国務長官も「交渉には時間がかかる」と議会で証言した。これは、習主席の「非核化を急がなくていい」との発言を、米首脳が入手していた事実を示唆するものだ。
 そして習主席は、金委員長が9月の国連総会に出席し、世界に向けて演説すれば「制裁解除」の空気が生まれるとアドバイスした。その際に第2回米朝首脳会談を行うように勧め、米朝関係改善も支持したという。
 ◆「拉致問題は解決」
 中朝蜜月化と「非核化交渉」の停滞は、日朝関係と拉致問題解決にも影響を与えそうだ。北朝鮮が日朝関係改善を必要とするのは、1兆円とみられる経済協力資金が狙いだ。ところが、中国が毎年1兆円以上の支援をすると、日本の資金への期待が失われてしまう。
 こうした現状を踏まえ、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は最近「拉致問題は解決した」との論評を掲載した。拉致問題の解決よりも日朝国交正常化を優先させようとの戦略なのだ。
 これに呼応するように、日本でも超党派の「日朝国交正常化推進議員連盟」が活動を活発化している。これは北朝鮮からの工作に呼応しているとみられても仕方がないだろう。
 北朝鮮が中国から多額の資金を調達すれば、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」のようにいずれ膨大な借金となり、中国に従属せざるをえなくなる。それを避けるためにも、日朝国交正常化が必要だからこそ、「拉致問題は解決した」と主張しているのである。だが、北朝鮮の手口に決してだまされてはいけない。「拉致より国交正常化」と主張する政治家らは北朝鮮の手先と非難されても当然だろう。
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【プロフィル】重村智計
 しげむら・としみつ 東京通信大教授、早稲田大名誉教授。昭和20年、中国・遼寧省生まれ。毎日新聞記者としてソウル特派員、ワシントン特派員、論説委員などを歴任。著書に『外交敗北』(講談社)、『日韓友好の罪人たち』(風土デザイン研究所)など多数。