【経済インサイド】「やってみなはれ」成否は? サントリー自販機で弁当注文OKの新サービス - 産経ニュース

【経済インサイド】「やってみなはれ」成否は? サントリー自販機で弁当注文OKの新サービス

宅配弁当を注文できるボタンを示す自販機=東京都中央区(柳原一哉撮影)
サントリーの自販機で弁当購入ボタンを押すと、職場まで配達される=7月5日、東京都中央区(柳原一哉撮影)
自販機で注文すると、職場まで配達してもらえる弁当=東京都中央区(柳原一哉撮影)
記者会見で握手を交わすサントリービバレッジソリューションの土田雅人社長(左)とぐるなびの久保征一郎社長=7月5日、東京都中央区(柳原一哉撮影)
マイナス5度まで冷やした「三ツ矢サイダー」を販売する「氷点下自販機」(アサヒ飲料提供)
側面に貸し傘を格納できるボックスを取り付けたダイドードリンコの自販機(同社提供)
スマホゲーム「ポケモンGO」に登場する伊藤園の自販機=東京都渋谷区(柳原一哉撮影)
 手軽に飲料を買える「自動販売機」。海外では自販機が強奪されたり、破壊されたりといったニュースが多い中、日本は治安の良さから全国で237万台が稼働し、「自販機天国」とまで呼ばれる。7月には自販機で弁当を注文できる上、オフィスに配達までしてもらえるという驚愕(きょうがく)の新サービスが登場した。手がけるのはサントリー食品インターナショナルと、飲食店情報サイトを運営するぐるなびの異色コンビ。なぜ弁当なのか、そして自販機なのか-。その背景を探った。
ランチ難民問題
 新サービス「宅弁」では、まず利用者が午前8~10時にオフィス内に設置されている自販機で、飲料と同じ要領で弁当ボタンを押して注文する。もちろん、弁当そのものが自販機からゴロンと出てくるわけではなく、ボタンを押すと、購入情報が無線を通じてぐるなびに届けられる。
 ぐるなびが複数の注文情報を集約し、加盟店に情報を伝達。加盟店が弁当をそろえ、購入者のオフィス内の自販機の脇にある専用台に、当日の正午をめどに配達する仕組みだ。注文した人は一歩も外出せずに昼食を手にすることができ、多忙なビジネスマンには“うれしいサービス”といえるだろう。
 そもそも、なぜ自販機で弁当を買えるようにしたのか。その背景には、昨今のオフィス街で急増している「ランチ難民」の問題があるという。
 都心には高層ビルが多く、人口密度も高いため、昼食時には大量のビジネスマンがあふれ、飲食店などは長蛇の列となる。「高層階からエレベーターを乗り継ぎ、飲食店の行列に並んで昼食にありついたのがオフィスを出てから20~30分後というケースも少なくない。貴重な休憩時間が無駄になっている」と業界関係者は嘆息交じりに語る。
 ぐるなびの調査(約2000人対象)でも「月1回は昼食にありつけないことがある」との回答が36%に上った。
 こうしたランチ難民に対応することで、加盟店は昼食時間帯に座席数の制約もあって取りこぼしてきた需要を取り込めるメリットがある。サントリーとぐるなびは、一定の手数料を加盟店から得られる。
 実は、自販機にはある仕掛けがある。利用者は弁当を買うたびに、釣り銭口から「ドリンク10円引き」コインがもらえる。このコインを使えば飲料を割引価格で買えるため、『ついで買い』を誘い込む設計という。
 自販機事業を手がけるサントリービバレッジソリューションの土田雅人社長は「手数料収入よりもむしろ利用者を自販機のほうに振り向かせること、そこに目的がある」と語った。
 もう1つの狙いは、オフィス内という自販機にとって一等地といえる場所の確保だ。宅弁自販機のメリットが浸透すれば、「企業側も、サントリーの自販機を設置してもらいやすくなる」(同社)わけだ。
生き残りへ付加価値
 サントリーには誰もやらなかったことに挑む「やってみなはれ」の創業精神があるとはいえ、こうした“奇手”といえる新サービスの背景にあるのは、自販機の長引く苦戦だ。
 飲料総研のまとめでは、四半世紀前の平成7年、飲料の販売数量は14億4500万ケースで、このうち自販機での販売は6億9000万ケース。実に約半分(48%)を占めていた。
 ところが安売りを仕掛けるスーパーや、コンビニエンスストアの出店拡大によって市場を奪われ、自販機販売は減少。22年に販売別シェアは自販機とスーパーが逆転し、29年には自販機のシェアは28%に縮小した。
 同総研の宮下和浩取締役は「自販機の品ぞろえはスーパーやコンビニに劣る。スーパーにはセール、コンビニにはポイント付与もあり、値引きのない自販機は価格面でも対抗できない」と指摘する。
 サントリーだけでなく、各社は自販機に新たな付加価値がなければ生き残りが難しいとの危機感を抱き、「自販機改革」に乗り出している。
 アサヒ飲料は4月から、凍る直前のマイナス5度まで冷やした「三ツ矢サイダー」が楽しめる「氷点下自販機」の全国展開を始めた。シャリシャリした食感と爽快感が味わえるという、従来にはない演出が売りで、8月末までに500台を設置する。
 伊藤園の一部自販機は、スマートフォン向けゲーム「ポケモン GO」の「ポケストップ」「ジム」として登場している。
 ダイドードリンコは「レンタルアンブレラ」と称して傘を無償で貸し出す自販機約500台を設置するなど、各社は「あの手この手」で存在感をアピールしている。
 各社の「飽くなき挑戦」で進化を続ける自販機は、果たして再び息を吹き返すのか-。その挑戦はまだ緒に就いたばかりだ。(経済本部 柳原一哉)