【衝撃事件の核心】作業員ら飲み込んだ黒煙…多摩建設現場火災 「火気厳禁」の場所など残る「なぜ?」 - 産経ニュース

【衝撃事件の核心】作業員ら飲み込んだ黒煙…多摩建設現場火災 「火気厳禁」の場所など残る「なぜ?」

火災で激しく黒煙が上がる建設現場=7月26日午後、東京都多摩市唐木田(工事関係者提供)
 ビルを飲み込んだ巨大な黒煙。7月26日、東京都多摩市の建設現場で発生した火災では、高熱の炎や煙に巻き込まれ、作業員ら40人以上が負傷、5人が命を落とした。鉄骨の溶断作業中の火花が燃えやすい断熱材に引火したことが原因とされるが、同様の火災は同じ施工者の建設現場で過去にも発生。なぜ、火災は繰り返されたのか。警視庁は業務上過失致死傷容疑を視野に、関係者から事情を聴いている。
 ■暗闇の中「パニック」
 「火事だ!」
 26日昼過ぎ。地下3階のさらに下、「免震ピット」と呼ばれる高さ150センチほどのスペースで作業していた男性作業員(44)は、同僚の叫び声に手を止めた。その直後、視界が真っ暗に。「停電だ」。ヘッドライトの明かりを頼りに上階につながる階段までたどりついたが、すでに濃い煙が立ちこめていた。
 無我夢中で階段を駆け上る途中、ボンベが弾けるような破裂音が聞こえ、「破片が吹き飛んでくるかも」と身構えた。周囲もパニック状態だったという。
 「息が吸えない。ダメかもしれない」。地上2階にいた別の男性作業員(20)は、火事だと気付いた数秒後には、立ち上る黒い煙に飲み込まれていた。作業着の襟元を口に押し当て、建物外の足場をつたってようやく煙の外へ逃げ出した。「とにかく『生きたい』。逃げるときはそれしか考えていなかった」。男性は呆然(ぼうぜん)と語った。
 1フロア約5000平方メートルのオフィスビルの建設現場で、この日作業していたのは約320人。黒煙はその広大な敷地を、一瞬で覆い尽くした。
 ■同様の火災過去にも
 火災はなぜ起きたのか。
 火元付近にいた作業員らは警視庁の聴取に、地下3階でガスバーナーを使って鉄骨を切断する作業中、飛び散った火花が床材や防火シートの隙間から床下に落下し、ウレタンの断熱材に引火したと説明。作業は2人1組で行い、1人がガスバーナーを持ち、もう1人は火花に水をかけて消す役割だったという。「水や消火器で消そうとしたが、火の回りが早く間に合わなかった」。作業員らはこう、供述しているという。
 施工者の「安藤ハザマ」によると、平成29年6月、同社が担当した東京都江東区の物流倉庫の解体工事現場でも、溶断作業中の火花が近くにあったウレタンに引火し、約5000平方メートルが焼ける火災があった。同社はこの火災を受け、「火気を使う作業時は付近の可燃物を撤去する」など6項目の安全規定を作成。同社は「協力会社を含め、火災の怖さを伝えていた」とするが、結果として教訓は生かされず、多数の人的被害を出す最悪の事態となった。
 ■残る疑問
 現場の地下3階の床下には、燃えやすいウレタンが広範囲に吹き付けられていたとみられる。なぜ「原則火気厳禁」の場所で、火花が出る作業をしたのか-。ゼネコン関係者や防火の専門家らはこの点に首をかしげる。
 ポイントとなるのは、作業の手順だ。安藤ハザマは「(火花の出る)溶断作業が終わったあとで、ウレタンを吹き付けるという手順も考えられた」と説明。なぜ火災リスクの高い作業手順をとったのか、工程短縮などの背景がなかったかなど、検証の必要がある。
 また、現場で実際にどのような防火対策がとられていたかも、今後の捜査の焦点となる。作業員らは床材の上にベニヤ板を敷き、防火シートで周囲を覆って作業していたとしているが、なぜその下のウレタンに引火したのか。詳細は明らかになっていない。
 警視庁は現場検証や工事関係者への事情聴取を進め、全容解明を急ぐ。