【田村秀男のお金は知っている】カンボジアが中国化したワケ フン・セン首相率いる与党の圧勝、背後には習近平政権 - 産経ニュース

【田村秀男のお金は知っている】カンボジアが中国化したワケ フン・セン首相率いる与党の圧勝、背後には習近平政権

中国の対カンボジア貿易
 「あそこはもう中国ですよ」。夏休みでアンコールワット遺跡のカンボジア観光から帰ってきた知人家族の感想である。年間延べ600万人近い同国への外国人旅行者の3人のうち1人は中国人、都市部は人民元の両替所だらけ、路地市場は中国製品の山だ。(夕刊フジ)
 そのカンボジアでは議会総選挙が7月末に実施され、フン・セン首相率いる与党が圧勝した。強権を発動して最大野党を解党させたうえでの選挙で、一党独裁体制を固めた。この政治劇を支えたのは習近平政権の中国である。自由選挙を厳禁する中国から派遣された選挙監視員が真顔で、「選挙は自由、公平、安全に実施された」と称賛したというブラックジョーク付きだ。当然のようにトランプ政権を含め、米欧が中国の動向に警戒を強めているというのに、日本の与野党やメディアの関心度の低さは何とも異様だ。
 中国はどうやってカンボジアを篭絡(ろうらく)してきたのだろうか。グラフは、習氏が中国の実権を握った2012年以降の中国の対カンボジア貿易の推移である。輸入を低水準に抑えたまま、輸出を急増させる片貿易戦術である。中国で生産過剰になっている鋼材や繊維などの原材料で輸出攻勢をかける。カンボジアは対中貿易赤字が累積し、対中債務が膨らむ。外貨難に苦しむ同国は中国からの直接投資を渇望する。中国は同国向けに年間で40億ドル以上の貿易黒字を稼ぎ、6億ドル前後を直接投資する。
 日本は民主化支援の名目でこれまでに10億ドル以上の円借款を供与してきたが、民間による同国向け直接投資は中国の5分の1程度に過ぎない。中国は円借款や日米主導のアジア開発銀行資金によって整備された現地のインフラに便乗し、着々と同国の中国化を進めているわけだ。
 習政権のフン・セン政権支援は米中貿易戦争に直面する中国の対外膨張戦略を象徴する。トランプ政権による対中貿易制裁の対象になる輸入額は先の知的財産権侵害相当分の500億ドルにとどまらない。トランプ氏は2000億ドルの追加リストを公表したし、さらに3000億ドル分の追い打ちをかけ、最終的には米国の対中輸入すべてを制裁関税の対象にする構えだ。中国の国際収支黒字は1200億ドル程度なので、3800億ドルの対米黒字が大きく減れば、赤字国に転落してしまう。習政権は広域経済圏構想「一帯一路」を推進するための外貨に事欠く羽目になる。
 その点、カンボジア・モデルは外貨に頼らなくても済む。中国はカンボジアでの投資プロジェクトを全面的に中国企業に発注させ、その代金は中国の国有商業銀行に人民元で支払う。建設従業員の大半は中国から派遣し、人件費も人民元だ。債務だけはドル建てでカンボジア側が負う。払えなければ、投資資産は中国側が接収する。中国後ろ盾の政権なら荒業も容易だ。習政権はすでに、アジアばかりでなく、アフリカなどの資源国にも触手を伸ばしている。(産経新聞特別記者・田村秀男)