TPP・日欧EPA・RCEP…窓口バラバラの通商交渉 「日本版USTR」は必要?

経済インサイド
米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表(ロイター)

 日本は米国の保護主義的な姿勢に対抗し、自由貿易を推進するため、複数の経済連携の発効を急ぐ。3月には米国を除く環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、7月には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)にそれぞれ署名。さらには日本や中国など16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も年内の妥結を目指している。しかし、交渉窓口となる省庁は全てバラバラ。通商交渉を専門に手がける米国の通商代表部(USTR)のような組織は必要なのだろうか?

 「米国企業が犠牲にならないようにするのが政権の役割だ」。5月に米首都ワシントンで開かれた講演で、USTRのライトハイザー代表はこう言い放った。

 「泣く子も黙る」(政府関係者)といわれるほど、強硬派で知られるライトハイザー氏。1980年代には日米鉄鋼協議で米側代表の一人として日本に輸出規制を認めさせた。当時を知る日本の政府関係者の中には、いまだにライトハイザー氏に対し、ある種の“アレルギー”があるという。

 そのライトハイザー氏が代表を務めるUSTRは1963年の設立。米国の通商交渉全般にかかわり、長官に該当する「代表」は閣僚級のポストだ。

 かつて日本国内で、「日本版USTR」待望論が浮上したことがある。

 2003年、当時の平沼赳夫経済産業相が閣議後の記者会見で、「USTRのように専門的知識を持つ新たな組織を日本にもつくり、21世紀の通商政策を機動的に行う必要がある」と述べ、外務省、経産省、農林水産省などが通商交渉にのぞむ体制に限界があるとした。日本経団連も04年、日本版USTRの設置検討を提言している。

 官民から日本版USTRを求める声が上がったのは、逆に言えば、通商交渉で各省庁の利害が衝突し、思ったような成果を得られなかった過去があるからだ。かつては「省庁によって主張が異なり、相手国が戸惑う場面もあった」(政府関係者)という。

 今はどうか。

 11カ国によるTPP11は内閣官房のTPP等政府対策本部、日欧EPAは外務省、RCEPは経産省が交渉窓口となっている。窓口がバラバラとはいえ、TPP11と日欧EPAは署名にこぎ着け、それぞれ来年の発効が見込まれている。RCEPも年内の妥結が視野に入っており、それぞれ交渉の成果をあげている。

 交渉窓口は異なるものの、全体を見渡す司令塔の役割を首相官邸が担うことで、「省庁間で連携が取れている」(経済官庁幹部)ことが、成果を出せた要因の一つといえそうだ。

 「“交渉屋”はいらない」。ある政府関係者はTPP11などの成果を背景に、日本版USTRの可能性をきっぱり否定する。

 なぜか。例えば経産省であれば、通商政策局が、業界を束ねる同省製造産業局や他省庁とも緊密に連携し、全体の国益を考慮に入れ交渉を進めていく。こうしたやり方は、外務省や農水省にもあてはまる。

 ところが、交渉だけを専門に手がける組織であれば、目先の成果だけが目的になり、「逆に国益を損ないかねない」(政府関係者)というのだ。

 実際、自民党内では01年以来の省庁再々編を視野に入れて議論が進められているが、日本版USTRについてはテーマにあがっていないようだ。

 むしろ、今後主流になりそうなのが、TPP11の交渉を手がけたTPP等政府対策本部のような方式だ。同本部は各省庁からえりすぐりのメンバーを集めて、内閣官房に作られた。メンバーが出身母体の省庁と連絡を取り合いながら利害を調整。一枚岩となることで、各国の思惑が複雑に絡み合い“ガラス細工”にも例えられるTPP11の難しい交渉をまとめた。

 今後、日米の通商交渉で焦点になるのは、近く開催を予定する「FFR」と呼ばれる新しい通商協議だ。

 FFRで日本側を代表して交渉にあたるのは、TPP11の交渉を主導した茂木敏充経済再生担当相。交渉相手は“こわもて”のライトハイザー氏。日本は米国のTPP復帰を促す一方、米側は農産品などでさらなる市場開放を求めるとみられる。

 FFRで茂木氏を支える中心はTPP等政府対策本部で、外務省や経産省など各省庁とも連携しながら対応にあたる。FFRは、今後の日本の通商交渉における組織のあり方をも占う試金石となりそうだ。(経済本部 大柳聡庸)

 米通商代表部(USTR) 米国の通商交渉を受け持つ組織として諸外国との交渉の調整、監督に当たる。日本との間でもさまざまな通商交渉を担当。自動車などの日米貿易摩擦や、トランプ大統領が離脱を表明した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉で窓口を務めた。トップの通商代表は閣僚級で、トランプ政権ではライトハイザー氏が就任した。(共同)

 FFR(日米の新しい通商協議) 4月の日米首脳会談で合意した新しい通商対話の枠組み。自由(free)、公正(fair)、相互的(reciprocal)の頭文字をとった。従来は、麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領による「日米経済対話」で協議されてきたが、実務者の茂木敏充経済再生担当相と米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が協議し、日米経済対話に報告する形となった。