米韓同盟が「漂流」し始めた? 文在寅政権が対北軍事訓練を続々と中止

久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ

 夏季恒例の米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」(UFG)をトランプ米大統領が中止したのを引き金に、韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権が、韓国軍の対北軍事訓練中止を続々と実行している。また韓国政府は非武装地帯(DMZ)の監視哨所の「試験的な撤収」も発表、全面撤収に向けてDMZの実質的な非武装化を進めるという。北朝鮮の非核化が進展しない中で韓国だけが“武装解除”を始めた格好で、米韓同盟の形骸化は必至。だが、そうした懸念は南北融和ムードの韓国では大きな声になっていない。

3大米韓演習のひとつが消える

 米韓当局が朝鮮半島の全面戦争を想定した3大演習のひとつである「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」(UFG)の中止を発表したのは6月19日、シンガポール米朝合意の7日後だった。このときは、シンガポールで金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が示唆した北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)エンジンの実験場閉鎖などが北朝鮮側の相応の措置として行われると期待されていた。

 UFGは、1954年から国連軍主体で行われてきた指揮所訓練「フォーカスレンズ」と、韓国軍が1968年の青瓦台襲撃事件を機に始めた官民軍による軍事支援演習「乙支(ウルチ)演習」が統合された旧「ウルチ・フォーカスレンズ」が改称(2008年)されたものだ。この大型の合同訓練には、韓国軍のほか政府や自治体など約4000の機関が参加し、年に1回、有事の連携を確認、参加人数は48万人に達する。

 UFGが中止となったことを受けて、韓国政府は7月10日、UFGの一部である「乙支訓練」の無期限延期を決めた。

 UFG中止をめぐる米国の決定は「米朝対話を円滑に進めるため」であり、計画の猶予はあくまで「一時的な中止」との位置付けだった。だが韓国側は、「乙支訓練」を早々に見直し、別の演習「太極演習」と合体したうえで、「北朝鮮の武力攻撃に加えて一般のテロや災害などに備える官民軍の訓練モデルに変更する」と発表したのだ。

 現在、韓国では、政府が一方的に「乙支訓練」をUFGから切り離したことで、来年以降のUFG自体が廃止される可能性が取りざたされている。

 南北融和を最優先する文政権は、米韓合同演習を無期延期に持ち込みたがっている。韓国軍関係者には、「米韓同盟の漂流」を懸念する声が小さくないが、韓国メディアで大きく取り上げられることは少ない。また、米朝間の非核化協議はすでに長期化が必至の様相で、そうなると米韓合同軍事演習の中断も長期化しそうだ。これは韓国側の「在韓米軍不要論」と米側の類似の世論を誘発するといわれている。

 旧称を含むUFGの歴史で、米側「フォーカスレンズ」中止は湾岸戦争で中止された1990年以来28年ぶり、韓国側「乙支訓練」を含むUFG自体の中止は42年ぶりとなった。米韓同盟の質的転換が始まったことは間違いない。

韓国軍も縮小?

 UFG中止のあと、米韓海兵隊が年に複数回行ってきた海兵隊合同演習(KMEP)も無期延期となった。また韓国軍は、南北軍事境界線の北西島嶼部で実施してきた自走砲などの射撃訓練も中止した。

 韓国政府は、南北首脳会談の「板門店宣言」における「南と北は地上、海上、空中をはじめとする全ての空間で軍事的緊張と衝突の根源になる相手に対する一切の敵対行為を全面的に中止することにした」との合意を遵守するとの立場で、7月以降に予定されていた軍事訓練は全面的に中止もしくは無期延期となった。

 そうしたなか、7月24日に韓国国防部が発表したのがDMZ内の監視哨所の撤去だった。国防部は国会国防委員会に「板門店宣言の合意にある『DMZの平和地帯化』に合わせ試験的措置として板門店共同警備区域の非武装化とDMZ内の監視哨所の試験的な撤収、段階的な全面撤収を推進したい」とする報告書を提出した。

 韓国軍内からは「一方的な撤収は安全保障上の問題が大きい」との指摘が出ているが、政府は南北軍事会談での北朝鮮側への提案を経て実現するとの立場。文政権の前のめりな武装解除案が目立っている。

 こうした傾向に加え、韓国の保守派は、文政権が開始した韓国軍全体の縮小にも危機感を募らせている。韓国軍は現在61万8000人の総兵力を持つが、文政権は軍近代化を名目に陸軍で約11万人削減、21カ月から18カ月への服務期間短縮を予定しているからだ。

 韓国国防部は「装備近代化により戦力は人数ではなくなった」とするが、保守派の軍事専門家は「米韓軍事同盟で海と空(海軍、空軍)を米軍に依存する韓国軍にとって、地上戦を担う陸軍の規模は戦力に直結している」と述べている。

 南北融和と米韓関係の現実が相反する事態が具体化しつつあるようにみえる。(編集委員)