映画「インクレディブル・ファミリー」 世界中で「家族の絆」が見直されるのはなぜなのか - 産経ニュース

映画「インクレディブル・ファミリー」 世界中で「家族の絆」が見直されるのはなぜなのか

映画『インクレディブル・ファミリー』の一場面 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
米長編アニメーション映画「インクレディブル・ファミリー」のブラッド・バード監督は「自分の育児体験を映画に反映させた」と語る(高橋天地撮影)
映画『インクレディブル・ファミリー』の一場面 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
映画『インクレディブル・ファミリー』の一場面 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
映画『インクレディブル・ファミリー』の一場面 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
映画『インクレディブル・ファミリー』の一場面 (C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
 米長編アニメーション映画「インクレディブル・ファミリー」が米国で記録的な興行成績を次々と打ち立てている。悪と戦う5人のヒーロー一家の活躍を描く勧善懲悪の物語が、なぜそれほど受けているのか。
ママの職場復帰
 「インクレディブル・ファミリー」は6月15日に公開され、日本では8月1日から公開予定だ。特殊な能力を持ったパパ、ママ、長女、長男、赤ちゃんの次男-家族5人の活躍をテンポよくダイナミックな映像で描いた「Mr.インクレディブル」(2004年公開)の続編。
 「主人公の夫婦は、育児と仕事の両立に悩むごく普通の人です。他の映画で描かれる完全無欠のクールなヒーローとは決定的に違います」とシリーズの特徴を説明するのは、脚本も担当した米国のブラッド・バード監督(60)だ。
 今回の主役は、ママことイラスティガール。全身をゴムのように伸縮させることができる。3人の子供の育児のため長らく現役生活を休止してきたが、“主夫”になることを買って出たパパことMr.インクレディブルに子守を任せ、念願の現場復帰を果たす。
仕事と子育て
 なぜバード監督は世界の治安を守るヒーローの壮大な物語に対し、育児や家事の分担、仕事と家事の両立…といった家庭内のテーマを持ち込んだのか。その理由を探るには1993年まで遡(さかのぼ)ることになる。
 バード監督は当時、いくつも映画の企画を抱え、仕事に追われる毎日。子供が生まれ、子育てにも追われていた。「下手をすれば家庭を壊しかねなかった。いい仕事をしていい父親にもなりたい。そんな当時の切実な思いをふと思い出し、前作と今作の脚本に反映させてみたのです」とバード監督。
 「子育てなどの家庭の問題は誰もが関心を持つのでヒットしそうだし、僕も家庭的なヒーローはいてもいい、と考えました」
家族
 ここへきて「家族の絆」が、内外を問わず多くの映画で重要なテーマとなっている。
 公開中の近作に目を向けても、先のカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した「万引き家族」(是枝裕和監督)、生まれつき顔の骨格などに障害を持つ少年を描く「ワンダー 君は太陽」(スティーブン・チョボスキー監督)、大阪で焼き肉店を営む在日韓国人一家の物語「焼肉ドラゴン」(鄭義信監督)、夏休み映画の目玉アニメ「未来のミライ」(細田守監督)…と枚挙にいとまがない。
 バード監督も家族の絆を描く映画の乱立は承知済みだ。
 「子育てする夫婦にとっては、普遍的なテーマだし、永遠に絶対になくならない問題ばかり。過ごす時代、時代で形を変えて問題は降りかかってくる。切り口はたくさんあります」と乱立の背景を推し量る。
 若い頃の創作に対する純粋な気持ちもある。
 「後世に語り継がれ、時代を経ても色あせない映画を作りたい。家族に絡んだテーマの映画がそれだ。積極的に作っていきたい」
さらに意味持つ「家族」
 家族を題材に政治や文化表象を研究する小樽商科大の佐々木香織准教授(社会学)は、本作が米国で大ヒットした背景に関し、ウォルト・ディズニーの配給部門「ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ」が配給を担ったことが大いに関係があると指摘する。同社の主たる顧客層は女性とその子供たちだ。
 「女性が自分らしく生きることをテーマにした長編アニメーション映画『アナと雪の女王』(2013年、米公開)で成功した。『インクレディブル・ファミリー』のイラスティガールのように、性別で役割を分業する既存の概念に挑戦する作品を世に送り、次の成功を当てにいくのは当然の帰結」
 さらに、佐々木准教授は映画作りで「家族の絆」に注目が集まっている点については、「地球規模で進むグローバル化と無関係ではない」とも指摘する。
 「個人がよりどころとしてきた寺や教会、地域コミュニティー-などの“中間集団・組織”が緩やかに解体され、人々のライフスタイルは著しく個人化が進んでいる。その反動で、家族の再考や再構築といったテーマが、政治、経済から文芸に至るまで“メーンプレーヤー”となる」
 佐々木准教授は「家族の意味を問う映画がさらに誕生し、ヒットを飛ばす傾向は続くのではないか」と予測する。(文化部 高橋天地)
 Brad Bird(ブラッド・バード)  1957年9月11日、米モンタナ州生まれ。主な監督作品は、「Mr.インクレディブル」(2004年)や「レミーのおいしいレストラン」(07年)で米アカデミー賞長編アニメ賞など受賞。実写映画「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(11年)も手がけた。
 「インクレディブル・ファミリー」 2018年6月15日、全米で公開。15日から17日までの週末3日間で興行収入約201億9614万円を記録。全米歴代アニメーション作品で第1位となり、週末オープニング記録を打ち立てた。