骨抜き答申で問われる「規制改革推進会議」の存在意義 大田弘子議長のリーダーシップは?

経済インサイド
規制改革推進会議で大田弘子議長から放送事業新規参入などについての答申を受ける安倍晋三首相(右)=6月4日、首相官邸(春名中撮影)

 政府の規制改革推進会議が6月、“毎年恒例”の規制改革に関する答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。客を有料で自家用車に乗せるライドシェアの事業拡大や労働改革など、国民が関心を持つ論点も多かったが、大胆な改革案は盛り込まれず、全体的に足踏み感が強い内容となった。議長の大田弘子・政策研究大学院大学教授が答申策定に向け、親しい安倍首相のバックアップを求めて“抵抗勢力”をねじ伏せようとした形跡もない。当たり障りのない答申しかできないのであれば、会議の存在意義自体が問われかねない。

 推進会議では例年、6月ごろの答申取りまとめに向け、本体の会合や作業部会を何度も開き、議論を進めている。政府は答申を踏まえて規制改革実施計画を策定・閣議決定し、必要な法改正などへつなげている。

 しかし、「推進会議はいつも議論段階で景気のいい改革案をぶち上げるが、答申では盛り込まなかったり表現を後退させたりして、国民をがっかりさせている」と、市場関係者の見方は手厳しい。

 今年の答申では、運賃をもらい自家用車で客を運ぶライドシェア(相乗り)が典型例だ。会議は5月11日示した「意見」で、「(海外では)多様な移動ニーズを満たすサービスの一つとして、いわゆるライドシェアの利用が注目を集めている」と述べ、日本でも「利用者の立場に立って、新たなタクシーサービスを創造していくべきである」と明記。使う自家用車を届け出制とし、登録台数に上限を設けるべきといった具体的な制度案まで踏み込んだ。

 だが、わずか1カ月後にまとめた答申には、ライドシェアの文言や制度案の記述はなく、「新たなタクシーサービスの在り方を総合的に検討」との表現止まり。タクシー業界などの反発に配慮したのだという。

 会議の事情に詳しい関係者は、「議論の段階で派手な改革案をぶち上げるのは、大田さんが目立って注目を浴びたいからだ」と批判する。事務局も、政治家や業界が猛反発する改革案を答申に盛り込む気は最初からなく、表向きの議論の裏で、穏便な結論に向け調整を続ける「できレース」という。

 規制改革推進会議が前身の規制改革会議を引き継ぐ形で発足したのは、平成28年9月のことだ。

 議長に就任した大田氏は研究畑だが、小泉純一郎政権下の14年以降、内閣府参事官や内閣府大臣官房審議官、内閣府政策統括官を歴任。18~20年には第1次安倍政権と福田康夫政権下で、民間人として経済財政担当相を務めた異色の経歴の持ち主だ。

 安倍首相との信頼関係は強く、推進会議の議長就任にあたっても、それを物語るエピソードがささやかれている。初め議長に就く予定だったのは別の人物だったが、安倍首相の「鶴の一声」で直前にひっくり返り、旧会議の議長代理を務めていた大田氏が任命されることになったという。

 就任予定だった人物は、ある大手企業の経営者。既に内示を受け、関係者から業務に関するレクチャーも受けていた。

 安倍首相が人事をひっくり返した真意は不明だが、周辺では「首相は気の合う大田氏に任せた方が意思疎通をはかりやすいと考えたのではないか」と噂されている。

 ちなみに経営者はその後、推進会議の委員(発足時14人)に名を連ねたが「やる気をなくし、議論に積極的に関わってこなかった」。委員の中には会議への出席率が極端に低い人もおり、意欲には濃淡があるようだ。

 ところで関係者が不満に思うのは、大田氏が安倍首相との親密さを生かして改革に反対する政治家や業界を説得する方向へリーダーシップを発揮しないことだ。

 政治家や業界との調整で中心的な役割を果たしているのは、推進会議委員の金丸恭文フューチャー会長という。28年11月、急進的な全国農業協同組合連合会(JA全農)の組織改革案を示した推進会議と、猛反発した自民党農林族、JA全農との落とし所に向けてシナリオを描いたのも、菅義偉官房長官や自民党の小泉進次郎農林部会長と緊密に連携した金丸氏だった。

 推進会議の議長に関しては、豪腕の金丸氏が就いた方が、改革がより進むとの指摘もある。ただ、農協改革で大きなエネルギーを使ったトラウマから、今の推進会議は国民向けの“ガス抜き”としての対立劇すら、避ける方向にあるという。穏便な答申策定に向け、最初から水面下の調整を続けるようになったのも、激しい対立劇を避ける狙いがある。金丸氏が議長になったところで組織の方向性は止められず、結局、大胆な改革を何もできない公算は大きい。

 規制改革は成長戦略と表裏一体で、アベノミクス「三本の矢」のうち、「金融政策」「財政政策」に続く「3本目の矢」だ。人口減少が進む日本経済は、生産力の強化が喫緊の課題。それに貢献する大胆な改革を提案できないのであれば、推進会議は、国費から出る運営費を食うだけのムダな存在と指弾されかねない。(経済本部 山口暢彦)

 規制改革推進会議 経済や社会の構造改革に必要な規制緩和策を企業経営者、大学教授といった有識者らが話し合う会議。前身の規制改革会議を引き継ぎ平成28年9月に発足した。答申は成長戦略の一環として政府の政策に反映される。29~30年は水産業や投資、医療・介護などの作業部会などを設けて集中的に議論した。議長は政策研究大学院大の大田弘子教授。