【経済インサイド】“超高級EV”誕生へ ジャガー、ポルシェ…「名門」参入で見る目変わるか - 産経ニュース

【経済インサイド】“超高級EV”誕生へ ジャガー、ポルシェ…「名門」参入で見る目変わるか

ポルシェの電気自動車(EV)「タイカン」。名門ブランドによるEV投入は、市場の動向を大きく左右しそうだ
電気自動車に参入する戦略について説明するポルシェジャパンの七五木敏幸社長=5月、東京都渋谷区
ジャガー初の電気自動車「I-PACE(アイ・ペイス)」。1回のフル充電で走行できる距離は480キロ
 欧州の高級車「ジャガー」(英国)とスポーツカー「ポルシェ」(ドイツ)という有力自動車ブランドが相次ぎ、電気自動車(EV)を投入する。EVをめぐっては、排ガスを出さないという環境性能が注目されてきたが、長い伝統があり世界的にファンの多い“名門”メーカーの参入で、加速性能や乗り心地、静粛(せいしゅく)性などの新しい価値に脚光が当たりそうだ。EVを見る目が大きく変わる契機になるか、注目される。
 英ジャガー・ランドローバーは3月、オーストリア第2の都市、グラーツの工場で、同社初のEV「I-PACE(アイ・ペイス)」を公開。直後に開幕したジュネーブモーターショーに出展した。欧州では既に受注が始まっており、年内に納車が本格化する見通しだ。
 5人乗りスポーツ用多目的車(SUV)で、1回のフル充電で480キロを走行できるという。英国での価格は日本円で約870万円から。
 ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン社長は6月に東京都内で開催した新車発表会でアイ・ペイスについても言及。「プレミアム自動車メーカーとして初めてEVのSUVを投入する。電動化への転換において、ジャガーは最前線に躍り出る」と強調した。日本では年内に受注、来年前半に納車を始める。日本での販売価格は未定。ホームページで注文の前段階となる購入希望や資料請求を募っており、同社幹部は「反響が大きく、手応えを感じている」と話す。
 一方、ポルシェは2019年に欧米で同社初のEVを投入する。「ミッションE」というコードネームが与えられたこの車は6月、生気あふれる若い馬を表す「タイカン」と命名された。4人乗りで、フル充電での航続距離は500キロ以上になるという。価格は未定。
 ポルシェジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長は、日本での発売について「20年の遅くないタイミングでお届けできるように準備している」と明らかにした。公開した動画では、ワイヤレスで充電できることを示唆したほか、搭載するドローン(小型無人機)を飛ばし、上空から走行の様子を撮影したり、先行きの道路の状況を確認するなど、タイカンが実現する近未来の自動車が描かれている。
 特筆すべきは加速性能で、時速100キロに到達するのにかかる時間は「3・5秒未満」としている。七五三木氏は「EVでは毎回同じ加速性能を出すことが難しいが、ポルシェはパフォーマンスを落とさないことで差別化できる」と指摘する。アイ・ペイスも4・8秒としており、市販車では10秒を切れば十分に速いとされる中、2基の高性能モーターを搭載する両車の加速性能は抜群だ。EVは特に低速からのスムーズな加速でエンジン車より優れているとされ、EVならではの「運転の楽しさ」を経験できそうだ。
 速さでは、米EVメーカー、テスラのEVも引けを取らないのは確か。ただ、ジャガーやポルシェには、新興メーカーでは太刀打ちできない伝統があり、それに価値を見いだす多くのファンがいる。
 ジャガーはオートバイのサイドカー製造会社として1922年に設立。第二次世界大戦後の45年に社名を「ジャガー・カーズ」、ブランド名を「ジャガー」に変更した。米フォード傘下を経て、英ランドローバーとともにインドのタタ・モーターズに買収されたが、依然として英高級車ブランドとしての存在感は大きい。
 ポルシェは「ビートル(カブトムシ)」の愛称で親しまれたフォルクスワーゲン・タイプ1を設計した技術者フェルディナント・ポルシェ博士により、30年頃にデザイン事務所として設立。48年には初めてポルシェの名を冠した356“No・1”ロードスターが製造・販売され自動車メーカーとしてのスタートを切り、今年は70周年に当たる。現在は独フォルクスワーゲン(VW)グループの一角を占める。
 両社が満を持してEVを投入する背景には、主戦場である欧州で、「電動化」への動きが加速していることがある。VWが排ガス規制を回避する不正なシステムを搭載したディーゼル車を販売していた問題が起きて環境規制の強化が進み、ディーゼル車の人気が急落。代わりにEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車が台頭しており、この流れは続きそうだ。ジャガー・ランドローバーは2020年までに全車種に電動車モデルを設定する方針。ポルシェも25年までに世界販売の50%を電動車とする目標を掲げており、七五三木氏はタイカン投入について、「ポルシェの新時代の到来を告げるものだ」と話す。
 課題もある。ジャガーやポルシェは、現行のエンジン車でも十分な加速性能を持ち、車内も静かだ。両ブランドのエンジン車を評価してきた顧客に対し、EVでどんな新しい価値を提供できるかが問われる。七五三木氏は、ポルシェのエンジン音に愛着があるファンが多いことを念頭に、「皆さんが一番心配しているのは『音』。ポルシェ好きの人にアピールできるものにできるかだ」と強調。エンジン車で培ったブランド力をEVにつなげられるか-。(経済本部 高橋寛次)
 電動車 電気自動車(EV)や水素で走る燃料電池車など、電気モーターを搭載した自動車。エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)も含まれる。走行時の二酸化炭素排出量がガソリン車と比べ少ないなど環境性能に優れている。中国や欧米などでEVを中心に電動車への移行を促す規制が加速し、メーカーが対応を急いでいる。