【原発最前線】大詰めのトリチウム水問題 「元汚染水」の安全性、受け入れられるか - 産経ニュース

【原発最前線】大詰めのトリチウム水問題 「元汚染水」の安全性、受け入れられるか

東京電力福島第1原発敷地内に立ち並ぶトリチウム水などが入ったタンク
福島第1原発のトリチウム水の処理をめぐって開かれた国の有識者会議=7月13日、東京・霞が関
 8月30、31両日に説明・公聴会が開かれることが決まった、東京電力福島第1原発にたまり続けるトリチウム以外を除去した処理水の問題。資源エネルギー庁が準備する説明資料では、トリチウムを含む水が事故前の第1原発や他の原発からも海に流されていることが強調され、海洋放出の結論が近いことを感じさせる。問題は風評被害。原発炉心を通ってきた「元汚染水」の「科学的安全性」を、人の「心」が受け入れられるかが問われている。(社会部編集委員 鵜野光博)
「安全性」強調
 7月13日の国の小委員会で示された公聴会用資料の案では、トリチウムについて「希釈された低濃度なら健康影響の心配はない」「国内の原発から海に放出されたトリチウムの年間総量は、雨に含まれる総量の1・7倍」「国内の原発から40年以上排出されているが、近郊の海水中の濃度は世界的な飲料水の基準を大幅に下回っている」-などと安全性を説明している。
 処分方法は海洋放出以外にも、地層注入▽水蒸気放出▽水素放出▽地下埋設-が検討されているが、資料案では過去の処分実績、費用などから海洋放出の優位性が読み取れるものとなっている。
 一方、「敷地内でのタンクの増設は限界が近づいており、いつまでもタンクにため続けることはできない」と強調。「デブリ(溶融核燃料)取り出しの作業エリア、使用済み燃料の保管場所を新たに確保することが必要」とし、トリチウム水が構内に約89万トン、タンク約680基分を占めている状況が、廃炉作業の障害となることも指摘している。
 委員からは「健康影響の心配はない、という表現は断定的すぎる」などの指摘があった。また、近畿大工学部などが6月下旬、「トリチウムの分離除去に成功した」と発表したことについても委員から質問があり、事務局は「研究者も実用化には時間がかかるとしている」として福島第1原発での選択肢には含めない考えを示した。
2つのトリチウム水
 資料案では「事故後はサブドレン(井戸)、地下水バイパスのくみ上げ水にもトリチウムが含まれているが、濃度を計測し、管理しながら希釈せずに海洋への放出を行っている」とした事実も明記した。
 タンクに貯蔵されている処理水は、原子炉内を通って汚染された水を、浄化装置を使ってトリチウム以外を除去したものだ。捨てられずにたまり続けるトリチウム水と、放出されているくみ上げ水とで濃度以外は科学的に大差はない。ただ、前者は「元汚染水」だという点が、その扱いに決定的な差を生じさせている。
 海洋放出に反対する福島県漁連の野崎哲会長は「事故後の汚染がようやく落ち着いてきたところで、改めて汚染されたものを海に流すのは反対だ」と述べ、「タンクによる陸上保管こそがリスクが少ない」と主張する。また、事故前からトリチウムを含む水が放出されていたことについては「聞いていなかった」と不信感をあらわにしている。
 一方、自民党の東日本大震災復興加速化本部は7月12日、まとめた提言でトリチウム水の処分について「問題を先送りせず、遅滞なく解決策を見いだすこと」と求めており、海洋放出に向けた外堀は埋められつつある。
「心」の問題へ総力を
 第1原発の廃炉作業の安全性を監視している原子力規制委員会は、以前からトリチウム水について「希釈して海洋放出-が現実的な唯一の手段」とし、さらに更田(ふけた)豊志委員長は「海洋放出を決めてから準備に数年かかる」として年内の結論を求めてきた。
 更田氏は7月18日の定例会見で、「なぜこっちのトリチウムはよくて、こっちのトリチウムはだめなのか」とくみ上げ水と処理水の扱いの差について言及し、「それは感情や気持ちの問題もある。あれだけの(溶融した)炉心の中を通ってきた水であり、トリチウム以外の核種(セシウムなど)は十分きれいにしたといっても、私たちだって日常生活でいったん汚れた水や物に対して抵抗があるのは自然なことだ」と一定の理解を示した。
 その上で、「市場の反応など非常に多くの要素がかかわり、純粋に科学・技術的問題ではないだけに、難しい議論だと受け止めている」と述べた。
 福島県の担当者も「トリチウムを含んだ水は事故前も海洋放出されていたが、事故後は『汚染水』を処理したもので、風評被害の点では一緒にはならない」と話す。ただ、海洋放出は廃炉作業を前に進めるためにも避けられない選択となりつつある。「心」の問題を前に進めるために、何が必要なのか。小委の枠を超えて、政治を含め総力を挙げるべき時期が近づいている。
 トリチウム水についての説明・公聴会 
 平成30年8月30日午前10時~午後0時半に福島県富岡町、31日午前9時半~正午に同県郡山市、同日午後3時半~6時に東京都内でそれぞれ開く。各会場で10~15人が意見を表明。質疑を入れて1人8分程度で、意見の概要は事前に提出する。来場が難しい人や選定に漏れた人のために書面による意見募集も行う。傍聴者は各会場50~100人程度。7月中にもウェブサイトで募集を開始する。