「しょうゆを世界標準に」キッコーマン茂木友三郎名誉会長は「傘寿」超え意気軒高 次のターゲットは?

経済インサイド
米シカゴ近郊のスーパーに並ぶキッコーマンのしょうゆ。舌の肥えた消費者へ向け、鮮度保持ボトル入りの商品も販売を始めた(山沢義徳撮影)

 味の素、ヤクルト、日清食品グループ、東洋水産…。いずれも海外市場でガッチリ稼ぐ食品メーカーだが、その先駆けといえる存在がキッコーマンだ。米国にしょうゆの販売子会社を設立したのは、前回の東京五輪より7年早い1957年。売り上げを順調に伸ばして16年後の73年には工場も建設し、現地生産に乗り出した。現在、海外工場は7カ所に上り、100を超える国々で販売を展開する。主導してきた茂木友三郎(もぎ・ゆうざぶろう)名誉会長・取締役会議長(83)は「残った地域を埋めていく」とさらに高みを狙う。次のターゲットに位置付ける南米、インド、アフリカ市場を攻略する秘策は-。

 米中西部ウィスコンシン州の農業地帯、ウォルワース。延々と広がるトウモロコシ畑の中にキッコーマンのしょうゆ工場がそびえ立つ。現地調達が難しい醸造設備の多くは、太平洋を越えて日本から運び込んだという。全米の食卓や飲食店へ向け、数百種類のしょうゆやソースを作っている。

 主に、日系移民などへ向けてしょうゆを輸出していたキッコーマンが本格的に米国進出を決めたのは、日本経済が高度成長期を迎えて食卓の洋風化が進む中、国内需要の先行きに危機感を覚えたからだ。今では多くの日本メーカーが海外に成長の活路を見いだすようになったが、キッコーマンはその先駆けだった。

 もっとも、自動車や家電などの工業製品と異なり、販売価格が安い食品は利幅も薄い。日本で製造したしょうゆを米国まで運ぶ船賃が重くのしかかる。そこで68年からは現地での瓶詰を開始、73年に現地生産をスタートさせた。ウィスコンシンを選んだのは、原料の大豆や小麦に加えて良質な水にも恵まれ、全米を結ぶ交通の結節点であることが決め手だった。

 「製法は日本と変わらない。添加物を使い数日で作る安価な『化学しょうゆ』もスーパーに並ぶが、無添加・本醸造がキッコーマンの売りだ」と、製造子会社キッコーマンフーズの清水和生社長は胸を張る。米国でシェア約6割を握り、2017年度の売上高は1855億円(東洋食品の卸売り事業含む)。今や、本国の日本に並ぶ事業の柱だ。

 キッコーマンの直近の業績をみると、売上高4306億円の約6割、本業のもうけを示す営業利益365億円の約7割を海外で稼ぎ出している(いずれも17年度)。「国内でも高付加価値商品に注力するが、人口減少の制約は避けられない。いずれ海外売上高比率は7割まで高まるだろう」というのが、茂木氏の見立てだ。

 そのロードマップ(行程表)となるのが、今年まとめた長期計画「グローバルビジョン2030」だ。同計画では、日本と北米、欧州の先進国市場でトップシェアを固めながら、新興国市場への浸透を狙う。

 具体的な地域は南米、インド、アフリカ。現在、東洋食品の卸売り子会社を通じて各地域へしょうゆを販売しているが、「南米とインドは5年以内、アフリカも政情不安がネックだが、10年以内には専門の販売会社をつくりたい」(茂木氏)という。順調に販売が伸びれば、将来的に工場を建てて現地生産に乗り出す可能性もある。

 このうち、南米の食文化は肉料理が中心のため、肉との相性がよいしょうゆの普及が進みやすいといえそうだ。スパイスを多用するインドやアフリカへの浸透には時間がかかりそうだが、世界的な日本食ブームが追い風となるに違いない。

 ただ「日本食ブームを活用するとしても、頼るのは禁物」というのが、茂木氏の持論。「日本食だけでなく、現地の料理にしょうゆを活用してもらうことが普及に欠かせない。現地の味覚やニーズに合った商品開発も重要だ」と力説する。

 実際、「キッコーマンと聞けば多くの人がしょうゆを思い浮かべる」(同)まで北米市場に深く根を下ろしたのも、スーパーなどで地道な試食販売を展開し、ステーキとしょうゆの組み合わせを提案していった結果“テリヤキ”として定着したためだ。近年では有名ブロガーに商品を提供し、ホームパーティーで使ってもらう新たな取り組みも進めている。

 また、現地向けの商品開発をめぐっても、最近では、ポン酢のようにレモンやライムの果汁を混ぜたしょうゆがメキシコ市場で人気を集めている。そうした成功パターンを南米へ広げるため、まずは米国のマーケティング子会社に、南米各国の食文化に精通したスタッフを増やすという。

 南米は人口4億人余り、インドとアフリカは10億人を超える巨大市場。難度が高くても攻略に挑む価値は大きい。「しょうゆを世界標準の調味料に」という長期計画の目標達成へ向け、傘寿を超えて意気軒高な茂木氏とキッコーマンの次の一手が注目される。(経済本部 山沢義徳)

 キッコーマン 千葉県野田市のしょうゆ醸造家が合同して1917(大正6)年設立。地場の中小メーカーを含め約1500社がひしめく国内しょうゆ業界の中で、グループ会社のヒゲタ醤油(東京都中央区)と合わせ国内シェア33・2%(2016年)を握る最大手だ。

 しょうゆと原料が共通する豆乳や、「デルモンテ」ブランドのケチャップ、トマトソースも手がけ、山梨県や長野県にワイナリーを持つマンズワインも子会社の一つ。

 新構造の容器で風味の劣化を防ぎ、それまで大規模に出回っていなかった「生しょうゆ」を広めた「いつでも新鮮」シリーズ(2010年発売)は、「スーパーの調味料売り場の色合いを黒から白に染め変えた」と称されるヒット商品になった。