米軍や自衛隊の兵器に埋め込まれる中国製スパイ部品 起こりうる自爆装置誤起動!

野口裕之の軍事情勢
貿易での対立を深めているトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席(共同)

 米シリコンバレーで研究・開発を続ける台湾系米国人技術者K氏の求めに応じ、1回目の接触を試みたのは2014年夏であった。場所は、K氏が都内に設立したベンチャー企業R社。K氏の依頼は「開発技術が中国人民解放軍に狙われている。危険実態を知らせたいので、○△省のしかるべき人物を紹介してほしい」との趣旨だった。K氏はFBI(米連邦捜査局)の保護下に置かれるが、理由は後述する。

 4年も前の「危ない事件」を思い出したのは、FBIが、米IT大手アップルの自動運転技術に関わる機密情報を盗んだとして、元社員のシャオラン・チャン被告(39)を財産価値のある企業の機密情報(トレードシークレット)窃取罪で起訴したニュースがきっかけだった。

 中国の習近平政権の産業戦略《中国製造2050》計画は、他国の技術を強制的に移転し、飲茶を楽しむがごとく知的財産権を侵害する。今次小欄は結果的に、米国のドナルド・トランプ政権が対中貿易戦争の激化覚悟で対抗に踏み切る正当性に触れる内容となろう。

FBIが逮捕したアップルの中国人開発者

 起訴状+FBIやアップルがカリフォルニア州の裁判所に提出した資料などを総合すると、チャン被告はアップルが当時は極秘裏に進めていた自動運転車のソフト&ハードウエアの開発者として2015年12月に採用され、回路基板の設計やテストに携わった。

 チャン被告は4月、子供の出生を理由に休暇を取得し中国に一時帰国。米国に帰った直後、母親の体調などを理由に、アップルを辞め中国に戻る意思を申し出た。不審に感じたアップルのセキュリティー部門ではチャン被告が、中国の電気自動車(EV)&自動運転のベンチャー《Xモーターズ》で働く算段を休暇中、Xモーターズ側に取り付けていた経緯を掌握。チャン被告にパソコンやスマートフォンなどの支給品返却を求め、アップルの技術情報にもアクセスできぬよう迅速に処置した。

 対するチャン被告は、アクセス権を遮断される直前の4月28日夜9時過ぎにソフトウエア研究所とハードウエア研究所に侵入し、エンジニアリング上の図式+技術マニュアル+技術論文などの機密データを抜き取った。抜かれたデータの6割が知的財産として登録済みだった。ハードウエアまで持ち帰っていた。

 自動運転など機密性の高いプロジェクトにアクセスするには、離れた場所の間を仮想的な専用線でつなぐ安全なデータ通信システム=VPN(仮想プライベート・ネットワーク)にログインし承認される必要がある。承認には当該プロジェクトへのアクセス権を有する別の従事者の推薦が必須。さらに上層部がこの推薦をチェックする。自動運転プロジェクトにアクセスできる従事者は4874人。その内、チャン被告が持ち出した機密情報にアクセス可能な従事者は1484人だった。

 チャン被告は6月末にFBIの取り調べを受け、7月7日に中国に高飛びしようとして逮捕され、窃取を認めた。最高10年の懲役と2800万円の罰金が科せられる。

 自動運転技術は兵器にも転用できるが、チャン被告が中国共産党や人民解放軍の密命を受けたスパイなのか、“入社試験用”の「お土産」を持参せんとしたのかは不明だ。ただ、4月28~29日の通信量が、直近9カ月間の通信量の2倍と異常に多い状況が事件の端緒で、筆者はプロのスパイではないと推測する。上司にXモーターズへの就職を申告し、シリコンバレーの玄関口サンノゼ国際空港を使い国外脱出を謀った点も、いかにもアマチュアだ。

 もっとも、中国企業は国営・政府系か否かを問わず中国共産党の命令には絶対服従。共産党=人民解放軍が欲する技術は全て提供する「鉄の掟」の下、プロかアマかを詰めても意味がない。加えて、中国流スパイの手口を学習すればなおのこと、意味を持たない。説明しよう。

 FBIは2005年、米国には擬装したスパイ企業が3000社あり、中国のスパイ活動が毎年、前年比20~30%増加中だと経営者に異例の注意喚起を行った。

 ソ連→ロシアは凄腕のプロが1人で「バケツ1杯の砂」を持参するが、中国流は“アマチュア”も投入する。中国の教範《西側軍事科学技術の収集利用に関する長期計画》などによると《4000団体が政治・経済・軍事・医学・社会・教育・文化…全正面で、プロではないがスパイ教育を施した各分野の専門家を使い少しずつ情報を集める》。近年は外国企業の丸ごと買収も多発しているが、1人が「砂1粒」を集め組織で「バケツ1杯」にするやり口もいまだ健在なのだ。

 中国は倒産やリストラ、定年で企業を出た日本人技術者を高報酬で誘い、短期技術指導者に据える。社に内密での訪中は社内規則違反で、帰国後は協力者に成らざるを得ない。広東省では06年、全宿泊客の身元をチェックイン後3時間以内に公安当局に通報する義務が課せられた。工作する技術・研究者らのリストアップのためだ。

狙われた米国防総省の技術スタッフ

 冒頭で簡単に紹介した、台湾系米国人技術者K氏が経営するベンチャー企業R社にまつわる「危ない事件」をたどる。

 K氏は元々、米国防総省の技術スタッフとして最新鋭戦闘機F-35や無人偵察機の画像システムを開発した。画像システムは標的を瞬間捕捉し、距離を正確に測定する無人偵察機や「対米空母キラー=対艦弾道ミサイル」の「目」に当たる。「目」があればGPSを必要とせず、自ら索敵することで電波妨害が支援する防衛網の突破が可能だ。

 当然、米国家機密で、性能抑制した合法的民生品を開発すべくR社を設立。3D眼鏡なしで見られる次世代立体テレビ放送を目指す独立行政法人などの要請で、3D立体画像のリアルタイム伝送システムを受注した。20年の東京五輪・パラリンピック向けビジネスだ。

 間もなく、R社と関係する複数の日米企業に人民解放軍系通信機器大手の“社員”が接触してくる。技術は奪われなかったが、ここから先が興味深い。当初は、中国軍総参謀部第三部隷下で北米担任の二局(61398部隊)か日韓担任の四局(61419部隊)辺りの、サイバー戦部隊の仕業と思ったら驚くほどアナログな戦法だった。

 R社は3D画像処理用基本データを、特殊な半導体に書き込む予定だった。が、K氏も知らぬ間に別の場所に移動→保管された半導体の真空包装は破られていた。人民解放軍系通信機器大手の“社員”が直接手に取り、読み取り器でコピーせんと謀った、とも考えられる。幸い書き込み前だったが、R社保有の機器にはサイバー攻撃を受けた痕跡が残り、防御壁に阻まれて「アナログ作戦」に変更したのかもしれない。

 「アナログ作戦」は今なお有効な戦法だ。ドイツはリニア建設で中国に有償技術提供したが、高度技術は秘匿した。ところが2004年、“中国人技術者”らが上海のドイツ工場に侵入し、設備を無断測定している現場を押さえられた。

 一方、米軍も「非中国製」を装う中国製電子部品購入による戦力低下を許している。「人間」が主役の諜報戦はまだまだ続くようだ。

オスプレイの事故は中国製部品が原因?

 例えば、米上院軍事委員会の2009~10年調査では、少なくとも1800事例=100万点もの「米国製」などを装うニセ電子部品が発見された。70%が中国製で、暗視装置▽無線機器▽GPS付き砲弾▽哨戒・輸送機▽各種ヘリコプター、果ては主力を含む各種戦闘機▽早期警戒管制機▽迎撃ミサイル・システム内のコンピューター…にまで混入されていた。ミサイルに粗悪な中国製ICチップを使えば、20%も命中精度を落とすという。

 「さすが海賊版王国」などと感心してはならぬ。自衛隊も同型や派生型を配備しているのだ。防衛装備庁はサプライチェーン(部品供給網)調査を始めたが、大手企業が協力的でも困難が伴う。防衛産業は下請け→孫請け…などピラミッド状に数百~数千の企業が絡み、細かな部品入手先まで掌握できない。

 米国も似た悩みを抱える。予算減で、米軍調達部門は大手企業により安い兵器を求め、個人輸入者を含む門外漢企業も商機とみて飛び付いた。価格を押さえようと多用したのが中国製マイクロチップなどだった。個人輸入者や中小の門外漢業者に対中危険認識は希薄で、米軍に粗悪品が拡散した。好機を見逃さぬのが中国。米軍需企業と取引関係にある人民解放軍系在外トンネル会社に、自称「非中国製」の米軍への納品を促した。

 かくして、人民解放軍の支援で、最先端スパイ装置を内蔵する非中国製を装う粗悪部品が「人間の口利き」で納品される、ある種の「ハイローミックス」脅威が生起している。米国家情報長官室は《不正侵入経路を構築するバックドアが仕掛けられた》と、FBIの軍需業界向け通達は《偽造ルーターをセットし、中国工作員が米軍システムに侵入できるようになった》と、それぞれ警告する。

 他方、米国家安全保障局(NSA)も08年以降、人民解放軍を最大標的に、メーカー内の協力者や工作員が出荷するコンピューターのハードやUSBの接続部分に超小型無線機を埋め込んでいる。無線機はデータを13キロ先の小型中継器に送信。逆に遠隔操作ウイルス=マルウエアの埋め込みも可能で、自爆装置を備える兵器を遠隔操作で誤作動させれば、兵器を内側から吹き飛ばせる。米中お互い様、ではある。

 ところで、中国製粗悪品が原因とみられる米軍兵器の事故は少なくない。ヘリコプターと固定翼機の利点を併せ持つ米軍のV-22(オスプレイ)は、細部まで精査しているのか? 自衛隊も導入中なだけに大いに気になっている。