【原発最前線】「電圧設定ミス」で福島第1・3号機の燃料取り出し延期? 東電の初歩的過ぎるトラブルにあぜん - 産経ニュース

【原発最前線】「電圧設定ミス」で福島第1・3号機の燃料取り出し延期? 東電の初歩的過ぎるトラブルにあぜん

電圧設定のミスで焦げたクレーンの制御盤(東京電力提供)
 「電気の専門家がたくさんいるはずの東京電力で、なぜこんなミスが起きるのか」。使用済み燃料の取り出し準備が行われている東京電力福島第1原発3号機で、クレーン制御盤が損傷するトラブルがあり、東電は6月下旬、クレーンの試運転が1~2カ月遅れることを発表した。その原因は「制御盤の電圧設定の間違い」。原子力規制委員会や福島県の関係者からは、あまりに初歩的なミスに、あきれる声が相次いだ。(社会部編集委員 鵜野光博)
「素人でも分かるミス」
 「私たちが外国に行くときは、ドライヤーとか電圧がどうかなと気をつける。それが常識だと思う」
 庶民の「常識」から今回のトラブルに疑問を呈したのは、7月6日に開かれた福島第1原発の廃炉作業を監視する検討会に出席した福島県大熊町商工会の蜂須賀礼子会長だ。
 トラブルについて報告した東電側に「淡々と説明されているが、なにか人ごとのようだ」と感想を述べ、「原因が『素人でも分かる』と言ったら失礼だが、東電は電気を扱う事業者なのに、電圧が違うことを知らなかった。それは何にでもつながる。最近の東電は、人任せになっているのではないか」と批判した。
 ここでトラブルの概要を説明すると、問題が起きたのは、3号機の使用済み燃料プールで冷却されている燃料を詰めたキャスクと呼ばれる容器をつり上げて運搬するクレーンの制御盤。3月16日に電源を入れたところ、電源回路などで警報が発生した。部品交換後、5月11日にクレーン操作をした際、やはり電源回路で警報が出て、制御盤が焦げているのが確認された。
 原因は、本来は電圧480ボルトで動作する制御盤が、制御盤を出荷した米国の工場で380ボルトに設定され、動作確認した国内の工場では420ボルトに設定。これを3号機で定格通りの480ボルトで動かしたところ、一部が高温になって焦げ、絶縁物が熱で変形し、ショートを引き起こしていた。
「理解しがたい」
 規制委の更田(ふけた)豊志委員長は6月27日の定例会見で「理解しがたい技術的問題だ」とトラブルに言及し、7月4日には「米国で作るときには380ボルトでチェックし、国内の工場で420ボルトでセットして、480ボルトで使って焦がしました、と。使用済み燃料取り出しという非常に重要な作業のカギとなる機器の設定なのに、これはうっかりミスなのか」と規制委の廃炉担当者に厳しく問いただした。
 伴信彦委員は「東電の組織が縦割り構造で、部署間の風通しが良くないと従来言われている。今回の背景にそれがないのか追及してほしい」と要望した。
 その2日後に開かれたのが廃炉監視の検討会だ。蜂須賀氏の指摘に、東電の廃炉・汚染水対策責任者を務める小野明氏は「人ごととは全く考えていない。東電としても品質管理上、大きな問題があったと考えている」と釈明した。そして「3月に問題が起きた段階できちんと原因究明がなされて対策が打たれていれば、4月以降のトラブルは起きなかった」と反省点を挙げた。
 また、組織の縦割り構造については「3月から電気屋も含めて原因究明に当たっている。担当者に任せず組織として動いてのは事実だ」と反論する一方、「組織として動きながら原因究明ができなかったのは残念だ」とも述べた。
影響見通せず
 3号機のプールには566体の燃料があり、これを2年間かけて構内の共用プールに移すことで、より安全な管理を行うのが燃料取り出しの目的だ。東電によると、今回のトラブルによって、クレーンの試運転が1~2カ月遅れるという。予定では、試運転後にプール内のがれきを撤去し、燃料取り出しの実機訓練を経て、今年度半ば、つまり秋にも燃料取り出しを始める計画だった。他の工程を短縮して遅れを取り戻すことも可能なため、取り出し開始時期について東電は7月現在で「予定通り」としているが、影響は見通せないのが現状だ。
 「ミスは人がやることだから一定の頻度で起きても仕方がないが、織り込まなければならないミスと、あまりにひどくないかというミスがあって、これは後者に近いところがある」(7月4日の規制委定例会合で、更田氏)
 「素人でも分かるミス」と言われた屈辱。長い廃炉作業に必要な「信頼」を取り戻すために、汚名返上が何より求められている。
 使用済み燃料 原発の原子炉内で一定期間使用した後に取り出した核燃料。福島第1原発では1号機に392体、2号機に615体、3号機に566体あり、それぞれ建屋内のプールで冷却されている。4号機にあった1533体の取り出しは平成26年12月に完了した。東電は「水素爆発で損傷した原子炉建屋から健全な共用プールに燃料を移すことは、大きなリスクの低減になる」としている。