【びっくりサイエンス】目や心臓も再生できるウーパールーパー 驚異的な能力の謎をゲノムから解く - 産経ニュース

【びっくりサイエンス】目や心臓も再生できるウーパールーパー 驚異的な能力の謎をゲノムから解く

アホロートル=分子病理学研究所(ウィーン)、ネイチャー誌提供
ウーパールーパー(アホロートル)=分子病理学研究所(ウィーン)、ネイチャー誌提供
アホロートル=分子病理学研究所(ウィーン)、ネイチャー誌提供
アホロートル=分子病理学研究所(ウィーン)、ネイチャー誌提供
 昭和の終わりごろ、日本でブームを巻き起こした「ウーパールーパー」。かすかに笑っているかのように見えるこの両生類の名は、アホロートル(メキシコサラマンダー)だ。25センチ程度の小さな体に、恐るべき再生能力を秘めている。謎解きの鍵を握るゲノム(全遺伝情報)サイズは、ヒトの10倍を超える。科学者は今年、その情報をついに解読した。
鍵を握る巨大ゲノム
 ヒトはけがをすると血を流し、やがて血液中の血小板が傷口に集結して血が止まり、そのうち皮膚が再生して傷が見えなくなる。しかし、この能力はある程度軽微な傷に限定される。
 それに比べて、自然界には体のパーツを切り取られても再生する生物がいる。イモリの尻尾切り、数百回も切られてミンチ状になっても“復活”する扁形(へんけい)動物のプラナリアなどが有名だが、アホロートルも非常に高い再生能力を持っている。このことは科学者の間では古くから知られており、その仕組みなどを研究するために1864年から実験動物として繁殖されてきた歴史がある。
 アホロートルは、自然界では幼生の形のまま成熟する。ネオテニーという現象で、このため基本的には生涯を通じ、外えらをもっている。
 彼らの四肢は、切られたり共食いにあったりしても再生する。四肢だけでなく、心臓や目の水晶体、脊髄までも再生できる。
 なぜ、これほどまでに高い再生能力を持っているのか。その分子的メカニズムはどうなっているのか、いったいどのような進化をしてきた結果なのか。アホロートルをめぐる多くの謎を解く鍵は、巨大ゲノムが握っている。
「第三世代シーケンサー」と新技術で攻略
 その謎に迫る進歩があったのは今年1月。英科学誌ネイチャー(電子版)に、オーストリアの分子病理学研究所や独マックス・プランク研究所などの国際研究チームが、アホロートルのゲノムを解読したと発表した。
 そのゲノムサイズは約320億塩基対。ヒトゲノム(約30億塩基対)の10倍を超える長大な塩基配列を持っている。チームはその全データを解読することに成功し、内容を分析した。
 ゲノム編集などの研究成果が知れ渡る現代社会では、巨大ゲノムの解読も当然のことのように受け止められてしまうかもしれない。だがそれは想像以上に難しいことだ。
 近年普及した次世代シーケンサーによる解読は、断片化した短いゲノムを高速で読み、その情報をコンピューター処理でつなげることで可能となる。だがアホロートルゲノムは巨大すぎて断片の数が増えすぎる。さらに、LTRと呼ばれる数百~数千回同じ配列を繰り返す領域が多く、ゲノム中の割合はヒトでは2割未満なのに対し、6割に上る。また、遺伝子など特定の配列がゲノム全体のどこに位置するのか、物理的なマッピングも困難だった。
 この難題を克服するために、チームは3つの戦略を組み合わせた。まず、これまでより長い配列を一気に読むために、最新型の「第三世代シーケンサー」を使用。第二に、断片化した配列情報を精度高くつなげる「MARVEL」と呼ばれるコンピューターアルゴリズム(電子計算手法)を開発した。さらに、ゲノムマッピングの新たな手法も開発した。
見えてきた遺伝子の特徴
 ゲノム解読は再生能力解明のスタート地点にすぎない。研究チームはその配列を分析した結果もあわせて公表している。
 この結果から、少し不思議なことが見えてきた。ゲノム編集技術を応用して調べたところ、「Pax3」という遺伝子がなく、「Pax7」という別の遺伝子がその役割を担っていることが判明した。Pax3は脊椎動物が受精卵から発生する際に必要とされる遺伝子で、なぜPax7に肩代わりさせているのか疑問が残る。
 謎の解明はこれからだが、高スペック再生能力の解明という点においては、トンネルの先の光が見える段階にたどり着きつつあるのではないか。再生能力の高いほかの生物もゲノムサイズは大きく、詳細に比較すればいろいろなことが分かってきそうだ。例えばイモリも約200億の塩基対という大きなゲノムを持っている。イモリやプラナリアとの比較研究などを進めることで、再生能力の解明や、より質の高い再生医療につながるかもしれない。