米国のベンチャーキャピタルが続々と日本上陸 〝不毛の地〟に起業家はぐくむ「土壌」をつくれるか

経済インサイド
ベンチャー・カフェ東京の山川恭弘代表理事

 起業の本場・米国でベンチャー企業に投資して育成し、ハイリターンを狙ってきた著名投資ファンド「ベンチャーキャピタル(VC)」が相次いで日本に上陸し、本格的な活動を始めた。最近は、ベンチャー企業などと連携して新しいサービスや商品を生み出す「オープンイノベーション」に力を入れる日本の大企業も増えてきた。欧米やアジアに比べて起業の勢いが弱いとされる日本の市場に海外のVCが進出する狙いとは-。

 日本の「起業の街」として知られる東京・渋谷に日本法人の拠点を置いたのが、シリコンバレーに本社を構えるVCのプラグ・アンド・プレイだ。

 同社は米ドロップボックスや米ペイパルなどユニコーン(企業評価額が10億ドル以上の非上場企業)5社に出資した実績を持つ。昨年だけでも262社に投資し、ベンチャー企業を支援するための資金調達額は総額60億ドル(約6600億円)を超える。

 日本での事業展開に当たって、同社は東急不動産やSOMPOホールディングスと提携した上で、ベンチャー企業と大企業の交流イベントを定期的に開催。起業家のアイデアの事業化を支援する「アクセラレーター(支援者)プログラム」に力を入れており、日本法人の代表を務めるフィリップ・誠慈・ビンセント・マネージングパートナーは「(ITを活用した金融サービスの)フィンテックや保険とITが融合したインシュアテック(保険版フィンテック)、IoT(モノのインターネット)、モビリティー(乗り物)がテーマとなる」と説明する。大企業は同社のこうした取り組みを踏まえ、有望なベンチャー企業を発掘しているという。

 日立製作所も提携企業の一つだ。従来は「研究開発を通じた自主開発が一番」という考えにこだわっていたが、スピード感に欠けてしまうとの反省に立ち、プラグ日本法人と手を組んだ。日立金融システム営業統括本部事業企画本部の長稔也担当本部長は「オープンイノベーションを通じ、金融の(抱える課題をITなどで解決する)デジタルソリューションを構築するのがわれわれの目的。プラグの豊富なネットワークで優秀なベンチャー企業を発掘できると期待している」と語る。

 一方、ベンチャー企業の新たな拠点として台頭が著しい虎ノ門ヒルズ(東京都港区)では、森ビルが、米シェアオフィス大手のケンブリッジイノベーションセンター(CIC)と提携し、起業家や大企業の担当者、投資家らをつなぐ交流プログラム「ベンチャー・カフェ」を開催している。

 CICは1999年にマサチューセッツ工科大(MIT)やハーバード大などがある米東海岸のマサチューセッツ州ケンブリッジで誕生。現在は世界6カ所でベンチャー・カフェを運営し、累計参加者は25万人に上る。

 東京では、約20人の大学生ボランティアスタッフが中心となって運営を進める。参加費は無料。ベンチャー・カフェはパネルディスカッションが軸だが、お酒も飲めるなど交流の許容範囲は広い。

 ベンチャー・カフェ東京の代表理事は、起業家教育で有名な米バブソン大の山川恭弘准教授。山川氏は「CICの周辺ではバイオテクノロジーやロボティクス(ロボット工学)といった領域の起業家が集まって、クラスター(企業群)を設計する。そこがマグネット(磁石)になり、さらにいろいろな企業が集まってくるので、東京では高齢化に伴うテクノロジーなど、東京ならではのクラスターを探す」と説明する。

 日本はかつて、“ベンチャー不毛の地”と揶揄(やゆ)され、現在も人口に対する起業家の比率は、欧米や中国などに比べて低い。大学を卒業すると大企業への就職を迷わずに選ぶケースが圧倒的に多いからだ。

 政府の成長戦略ではベンチャー支援の強化を重点課題として掲げており、日本固有の起業風土を変えていく必要がある。それには、海外で数多くの実績を残してきたプラグやCICなど「黒船による外圧」も有効な手立てとなる。

 山川氏は「日本人はスマートで辛抱強いという国民性」と解説した上で、こう断言した。

 「起業文化がいったん浸透したらどこの国にも負けない。副業が本業に発展する動きが活発化し、大企業や産学連携から起業家を輩出すれば“一匹おおかみ”といったイメージが健全化する。『私にもできるのでは』といった空気を醸成できるし、風土はだいぶ変わってくる」(経済本部 伊藤俊祐)