土地購入でキックバック 風光明媚な観光地、伊東市揺るがした前市長の疑惑の構図

衝撃事件の核心

 温泉、南国ムードあふれるビーチ、内陸に入れば美術館などが立ち並ぶ伊豆高原を擁する首都圏有数の観光地、静岡県伊東市。風光明媚なこの地でリゾートホテル跡地をめぐり、市が土地を購入する代わりにキックバックを受け取ったとして、前市長らが収賄などの容疑で警視庁捜査2課に逮捕された。土地の活用方法は購入後に後付けされたとされ、当初から関係者の間で土地取引に不審の眼差しが向けられていた。警視庁の捜査は、地元関係者の証言などから浮かぶ腐敗の構図とは?

「市長の裏を知る人物」

 平成27年8月24日昼過ぎ、伊東市内の自動車販売店の事務所内で、1人の男が別の男から紙袋を受け取っていた。約10日後の9月3日深夜にも市内の路上に止めた車の中で、同じ男たちは紙袋を受け渡した。紙袋にはそれぞれ現金500万円が入っていた。

 現金はリゾートホテル跡地を市内の業者から市が買い取る見返りに、業者から当時の市長に贈られた「賄賂」だった。

 警視庁捜査2課は今年6月、収賄容疑で前市長の佃弘巳容疑者(71)、贈賄容疑で建設会社「東和開発」役員、森圭司郎容疑者(48)、現金授受を仲介したとして、収賄幇助容疑で会社員、稲葉寛容疑者(50)を逮捕した。

 関係者によると、3人は伊東市の宇佐美地区出身。佃容疑者と森容疑者は、森容疑者の父の代からの知り合いで、稲葉容疑者は佃容疑者が進める不動産関係の話にからみ、「市長の裏を知る人物」とされていた。

いわくつきの場所

 取引対象となったのは、リゾートホテル「伊東マンダリン岡本ホテル」跡地(約4030平方メートル)。伊東のホテル街の中心部にあり、21年、会員制リゾートクラブ「岡本倶楽部」の運営会社が取得し、元本保証をうたって多額の預託金を集めた。

 ホテルは翌22年に廃業し、違法な金集めをしていた疑いがあるとして、警視庁などの合同捜査本部が組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)の疑いで、実質経営者の元暴力団関係者らを逮捕している。この土地は、地元ではいわくつきの場所となっていた。

 土地はその後競売に掛けられ、26年10月、東和開発が約4800万円で購入。佃容疑者は部下に指示するなどして、東和開発から購入する準備を進め、「図書館などの生涯学習施設の移転候補地にする」との理由で27年7月、伊東市に2億500万円で購入させた。

「必要ない土地」不正疑う声

 この土地取引にあたり、稲葉容疑者が森容疑者の相談に乗るコンサルタント業務をしたかのように架空の契約書を作成。佃容疑者の指示で、森容疑者が稲葉容疑者の金融機関口座にコンサルタント料名目で600万円を2回振り込み、稲葉容疑者がそれを引き出して500万円ずつ佃容疑者に手渡したとみられる。

 佃容疑者は逮捕前、周囲に「現金は受け取ったが、過去に(稲葉容疑者に)貸していたカネを返してもらっただけで、わいろではない」と容疑を否定していた。

 しかし、ある市政関係者は「(佃容疑者から)指示があった時点では、土地を何に使うかは決まっていなかった」と明かす。「図書館の移転などの候補地にすることは、後から議会対策で考えた」との市職員の証言もあり、佃容疑者がわいろではないと否定しても、なぜ土地を購入したのか説明がつかない。

 佃容疑者は、地元の業者の間で「親密な業者にばかり公共工事を発注している」という噂が絶えなかった。ある市職員は「(佃容疑者は)在任中とにかく土地購入に熱心で、ホテル跡地の購入を指示された時も、担当部署内で『また買い物か』などと不正を疑う声が上がっていた」と話している。

 市議、県議、市長と30年以上にわたって地元の政治家として影響力を持ってきた佃容疑者。功績も大きかったというが、膨れあがった疑惑を清算する時が来たようだ。