【志らくに読ませたい らく兵の浮世日記】パルムドール受賞映画「万引き家族」には落語の庶民目線が匂います - 産経ニュース

【志らくに読ませたい らく兵の浮世日記】パルムドール受賞映画「万引き家族」には落語の庶民目線が匂います

 観てきましたよ。「万引き家族」。
 是枝裕和監督や役者さんたちのカンヌでのインタビュー。パルムドール受賞。帰国してからは文科省のお祝いを辞退したりと、何かと話題にのぼり続けの映画です。観ないわけには行きません。はい。
 「万引き家族」です。当然、万引きする家族の映画です。あんまり金持ちや恵まれた人は万引きしない。いや、状況にもよるでしょうか。何不自由なく暮らしているはずの大女優が万引きで捕まった、なんて話はハリウッドでもあった気がします。ただ、この映画の主人公たちは、あまり恵まれた方ではありません。
 貧しい人たちの話ですから、きれいな情景よりも、どちらかというと、少し汚れたような、生活感の漂う、狭苦しい景色が続きます。ただどの景色も、いつかどこかで見たような、そんな近さを感じます。家の中、商店街、住宅街、いつか自分もそこに住んでいたような。
 同じ日本の現代が舞台ですから、近さを感じるのは当たり前かもしれませんが、でもその近さに「匂い」まで感じるほどです。路地裏とか近所の川とか食べ物とか。クンクンクン。
 さすがに匂いまで感じるのは鼻が過敏な私くらいだろうと思ったのですが、考えたらパルムドールを穫ったわけですから、日本映画の日本の景色のあの匂いを、ヨーロッパの人たちも思う存分、クンクンしたのでしょう。クンクンクン。
 そして私がクンクンした匂いの中で一番感じ取ったものは、貧しさでした。
 落語の舞台は江戸や明治の時代。お殿様、お姫様、お侍も出てきますが、主人公は庶民。お金持ちが主人公でも、庶民の目線で描かれるのが落語です。
 「万引き家族」にはどうしても、落語を感じずにいられませんでした。貧しさのなかで、世間からかけ離れた生活を送る人たちが、そこに後ろめたさを感じながらも居直り、狭いところで肩を寄せ合って生きている。映画のところどころにも、落語らしいフレーズが垣間見えます。喜劇映画ではないのですが、観ている私も登場人物に共犯者意識を感じて思わずニヤリとしてしまう。
 役者さんたちの抑えた演技も、どこか落語っぽい。
 映画を観てるなかでも、やっぱり色んな落語を連想しましたね。映画の物語とピッタリ重なるわけではありませんが、「寄合酒」「人情八百屋」「お直し」「身投げ屋」「宮戸川」。人によっては、この映画を観ながらもっと違った落語が見えて来るんじゃないでしょうか。
 貧しさのなか、社会の底辺で暮らす人たちの苦悩や、人情や、現代社会の抱える問題や、色々なものが詰まった映画です。
 私はこの映画を、落語に出てくる貧乏長屋をのぞき込む思いで観ておりました。長屋ってこんな匂いだったのかあ。クンクンクン。
 あ、安藤サクラさん。すごかったなあ。落語に出てくる女性を演じるときに、いろいろ参考になりそうです。しめしめ。
 らく兵の落語会 東京・渋谷の宮益坂十間スタジオ Aスタジオで「らく兵の落語おろし」という、すべて師匠・立川志らくがらく兵のために自身の十八番をチョイスしたネタと他一席の勉強会を行っている。次回は7月11日(水)午後7時開演。問い合わせは、立川企画(電)03・6452・5901。
 らく兵 宮崎県出身。平成18年6月、立川志らくに入門。24年4月、二ツ目昇進。