世界最大のVR空間で巨大津波を再現 思わず声を上げる迫力に避難の大切さ痛感

びっくりサイエンス
世界最大のVR空間「ラージスペース」で再現された大津波。専用の立体メガネをかけると、よりリアルに体感でき、あっという間にのみ込まれる=茨城県つくば市の筑波大

 映像や音響などで仮想世界を作り出し、さまざまな疑似体験ができる仮想現実(VR)技術が注目を集めている。その世界最大の施設が筑波大(茨城県つくば市)にある「ラージスペース(Large Space)」だ。再現できる光景の中には巨大津波もあり、東日本大震災から7年がたって記憶の風化が危惧されるなか、防災面での活用にも期待がかかる。

 ラージスペースは2015年に完成した。大きさは幅25メートル、奥行き15メートル、高さ7・8メートルで、体育館のような大きさだ。天井に12台のプロジェクターが設置され、それぞれが範囲を分担し、天井を除く室内の壁や床に映像を投影。専用の立体メガネをかけると、まるでその場にいるような感覚を抱く。

 体験者の視界は「モーションキャプチャー」と呼ばれる技術でリアルタイムに把握されている。具体的には、立体メガネに取り付けたマーカーと呼ばれる目印を通じ、天井付近の赤外線カメラが頭部の向きを追跡。その情報と12台のプロジェクターが連動し、投影する映像の角度などを絶えず調整する仕組みだ。

 ここで研究を行っている筑波大の岩田洋夫教授(バーチャルリアリティー)は「映像の処理が大変で、全部そろっていないといけない」と難しさを話す。

 記者も実際に体験してみた。最初は欧州のクロアチアにある世界遺産の大聖堂内部が映し出された。石の柱がいくつも立ち並ぶ間を歩き回っても、周囲の光景に不自然さはほとんど感じられない。さまざまな場所から自由に見られ、柱の一つに近づくと、まるで目の前にあるようで、思わず抱きかかえそうになった。

 このように臨場感を味わうことのできるVRは、当然ながら私たちの社会に貢献する大きな可能性を秘めている。

 その一つが防災面での活用で、今回もっとも記憶に残ったのが、高さ15メートルの大津波が押し寄せてくる光景だった。東日本大震災の津波を参考に再現したといい、数百メートル先にあったかと思うと、あっという間にのみ込まれた。

 この感覚は決して心地よいものではない。疑似体験と分かっていても、思わず声を上げてしまった。そして「こんな目には遭いたくない」と思い、早期避難をはじめとした津波対策の大切さを改めて認識した。

 岩田教授は「津波の現場には絶対にいられないが、VRなら“体験”でき、自らを傍観者から“当事者”に置き換えられる」と意義を強調する。

 津波と街の立体映像を組み合わせれば浸水の様子を再現でき、津波対策で堤防の高さを決める場合に用いれば当事者の理解を得やすいだろう。

 ラージスペースではこのほか、横浜中華街(横浜市中区)の大通りやつくば駅前(つくば市)、テニスの四大大会の一つとして知られるウィンブルドン選手権のテニスコート(英国)も体験させてもらった。

 ウィンブルドンのテニスコートは、なかなか立ち入ることができないが、VRなら簡単だ。またぐこともできそうな中央のネットに近づいたり、客席から見下ろされる感覚なども味わうことができ、自然とポーズを取りたくなる。

 これだけでなく、体験者をワイヤでつるして空を飛ぶ感覚を味わってもらったり、芸術活動にも用いられたりと、さまざまな形で活用されている。

 岩田教授は天井も含めた全方向でのVR空間を実現する技術も開発中で、完成すれば臨場感はさらに増すだろう。

 現在は主に研究開発に使っているが、たまに公開されることがある。直近では学生による成果発表会のときに公開される見通しで、筑波大グローバル教育院・エンパワーメント情報学プログラムのホームページ(http://www.emp.tsukuba.ac.jp/)に告知が出されるという。(科学部 小野晋史)