新幹線殺傷 親子の軋轢で孤立、仕事で挫折し引きこもり… 親族証言やメモから浮かぶ男の「暴力性」

衝撃事件の核心
小島一朗容疑者が祖母と同居していた部屋。手前に祖母、奥に小島容疑者が寝ていた=愛知県岡崎市(上田直輝撮影)

 神奈川県内を走行中の東海道新幹線内で乗客の男女3人が刃物で襲われ殺傷された事件で、小島一朗容疑者(22)は県警の調べに「むしゃくしゃしてやった。誰でも良かった」と供述し、社会への恨みにも言及している。凶行の背景に何があったのか。親族の証言や自筆ノートからは親子の軋(あつ)轢(れき)から家庭で孤立し、現実社会にもなじめないまま自殺願望や暴力性を強めた半生が浮かぶ。

「家族ではない」

 「今は『元息子』という感覚。籍もなく家族ではない」。愛知県一宮市の父親(52)は昨年9月に母方の祖母(81)と養子縁組した小島容疑者を「一朗君」と呼ぶ。被害者への謝罪を口にする一方、関係断絶を強くにじませながら、少年期を振り返る。

 小島容疑者は中学卒業まで両親と姉、父方の祖父母の6人で暮らした。「昔から精神的に幼く、中学生から体と精神面の“差”が特に開いた」。中2で学校を休みがちになり、自室にこもってパソコンやゲームに没頭した。

 夏休み中の深夜、両親の寝室に怒鳴り込むこともあった。「なんで姉ちゃんと差別するんだ」。叫びながら、包丁や金づちを投げつける。怒りの理由は、母親が買ってきた水筒が「中古」ということだった。

 高校入学を機に小島容疑者は近所の自立支援施設で暮らし始めた。「一朗君とはそれから3、4回しか会っていない。彼の荷物も写真もこの家にない」。父親の口調は淡々としていた。

挫折

 自立支援施設では率先して家事を手伝い、職員の指導にも素直に応じた。施設代表の70代男性は「自分から話しかけるタイプではないが、人とうまく付き合おうとしていた」

 勉強にも真面目に取り組み、電気工事士など複数の資格を取得。定時制高校、職業訓練校を経て平成27年、埼玉県の機械修理会社に就職した。就職時、年配の入所者から背広をプレゼントされたといい、周囲に馴染んでいた。

 しかし、就職先では人間関係のトラブルなどで1年足らずで退社。その後は「唯一慕っていた」(親族)という母方の祖母宅に身を寄せ、部屋に引きこもった。

 部屋では祖母とベッドを並べた。「こんな生活情けない。こういう生き方はしたくない」と自嘲する一方で「また仕事をして、挫折するのが怖い」「僕はこの世に適応しない」-などと、祖母には本音を打ち明けた。

自殺願望

 自殺をほのめかして家出を繰り返した。自殺用のロープを持ち、祖母が止めても「(長野県の)姨捨山(おばすてやま)で死にたい」などと飛び出していく。そのたびに警察に保護されるなどして戻り、一時は精神的な不調をきたして病院に入院した。

 部屋には殺人と罪の意識を取り上げたドストエフスキーの「罪と罰」などの文学作品や、哲学者ハイデッカーの「存在と時間」が並び、自筆のノートには自らの暴力性をつづった。

 「私は暴力がいけないことだというのは分かっている。しかし私は自分自身の正義の方を優先したい」

 新たな就職先を約1カ月で退職した直後の昨年12月、「自由になりたい」と言い残して行方不明になった。祖母がキャッシュカードを渡しておいた口座からは毎月約10万円が引き出され、今年4月に残高が底をついた。その約2カ月後、長野県内での野宿生活を経て、刃物を持って新幹線に乗り込んだ。

 「人に殺されるのは最低の死に方だ」。かつて祖母にこう語っていたという小島容疑者はなぜ女性を襲い、立ち向かう兵庫県尼崎市の会社員、梅田耕太郎さん(38)に馬乗りになり、刃物を振り下ろしたのか。神奈川県警が動機などの解明を進めている。